『免疫を制御する脂質』
今週末、臨床分子栄養学研究所の会員向けに『脂質と免疫』というテーマで講演をします。
ここは分子栄養学(オーソモレキュラー)に基づいた栄養療法を実践している医師が多数所属している団体です。
お医者さんに向かって免疫について語るのはかなり恐れ多いですが…、ご存知の通り日本の医学部では栄養学はほとんど学ばないため、病気の知識は豊富でも栄養に関する知識は身につきません。
今栄養療法を取り入れている医師の多くは、実際に患者さんを診て西洋医学に限界を感じて自分の意思で栄養学を学んだ方々で、まだまだ貴重な存在です。その方々に脂質栄養の分野からお伝え出来る機会をいただけたのは大変ありがたいこと。
臨床で活かせる内容をまとめた資料を作っているところです。
今日はその中から一つ、時節柄ちょうど困っている方もいるかもしれない花粉症(アレルギー性鼻炎)と脂質について書きます。
まずはアレルギー性鼻炎のメカニズムについて
①花粉やハウスダストなどのアレルゲンを吸い込む
②B細胞がアレルゲンに合わせてIgE抗体を作る。
③IgE抗体は鼻粘膜にあるマスト細胞(肥満細胞)の細胞膜にくっついて、次にアレルゲンが侵入してきた時のために待機。(※マスト細胞は細胞の中にヒスタミンやロイコトリエンなどの顆粒を蓄えている)
③その後再びアレルゲンを吸い込むと、マスト細胞にくっついている抗体に捉えられ、それがスイッチとなって細胞内のヒスタミンやロイコトリエンといったアレルギー誘発性の顆粒が放出されて(脱顆粒)、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどのアレルギー反応が起こる。
以前より、このようなアレルギー反応が起こっている部位には「好酸球」という免疫細胞が増えることから、好酸球はマスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの脱顆粒を促しアレルギーを悪化させるとされていました。
ところが近年、アレルギー性鼻炎を発症したマウスに亜麻仁油を与えるとアレルギー反応が抑えられる事が分かりました。
そのメカニズムを調べていくと、亜麻仁油を食べたマウスの鼻粘膜には15-HEPE(じゅうごひーぷ)という脂質代謝物が増えていて、15-HEPEがマスト細胞の脱顆粒を抑える事でアレルギー反応を抑制している事が分かりました。
この15-HEPEというのは、EPAの代謝物。
亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸が体内でEPAに代謝され、更に鼻粘膜部位で15-HEPEに代謝されて働いていたのです。
では一体15-HEPEはどうやって作らるかというと、なんとこれまでアレルギーを悪化させると考えられていた好酸球が持つ酵素によって作っていたのです。
同時に、好酸球が持つ酵素はアラキドン酸も代謝させますが、アラキドン酸から作られる代謝物は逆にアレルギーを悪化させる事も分かりました。
これはどういう事かと言うと、これまでアレルギーの増悪化を促すと考えられていた好酸球が、実は体内にオメガ6(アラキドン酸)が多いとアレルギーを悪化させ、オメガ3(EPA)が多いとアレルギーを抑える可能性があるという事です。
兼ねてからオメガ3がアレルギーを抑えることは分かっていましたが、更に詳細なメカニズムの一つが分かったことはとても大きな研究成果だと思います。
15-HEPEのような脂質代謝物は本体体内で無意識のうちに産生されるのですが、遺伝的または生活環境によっては産生しにくい場合もあるため、今創薬の分野では代謝物そのものを化学合成して薬を作るという方法が取られています。
ただ、体内で15-HEPEなどの代謝物が作れない大きな原因となっているのが原料不足です。
原料となるEPAがなければ、いくら好酸球が酵素を出しても作りようがありませんよね。
まずは常に体の中に原料を満たしておく事が重要です。
マウスでの研究では亜麻仁油を使っていますが、同じα-リノレン酸を含むエゴマ油でも良いですし、更にはEPAで摂った方が15-HEPEへの代謝はスムーズと考えられるので、花粉症などのアレルギー性鼻炎でお悩みの方はオメガ3系のオイルやお魚を積極的に食べるとよいですね。
♪プロフィール♪
協会顧問.地曵直子
♪職業♪
一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会
顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
♪趣味♪
脂質栄養学