【専門家ナビ】地曳直子先生

『免疫システムと脂質』
先日、国立研究法人 医薬基盤研究所の國澤純先生をお招きして『withコロナ時代における食・栄養の
重要性と免疫制御』というテーマで免疫とワクチンや栄養素のお話をしていただきました。
國澤先生は粘膜免疫の研究が専門で、主に腸管でどのような腸内細菌や栄養素が免疫機能に関わるかと
いうような研究をされています。
今回のセミナーのポイントは、腸におけるIgA抗体の産生に必要な2つの栄養素について。
それはどちらも、とても意外な栄養素でした。
1つはビタミンB1、もう1つは必須脂肪酸のアラキドン酸です。
粘膜免疫や腸管免疫と聞くと、ビタミンAや亜鉛などを思い浮かべる方も多いと思います。
もちろんそれらも重要なのですが、IgA抗体の産生という観点から言うと、ビタミンB1とアラキドン酸
が非常に重要なのです。
まず、私たちの免疫システムについて簡単に書くと、体の中にウイルスや細菌などの病原体が入ってく
ると、私たちの体の中では『抗体』というものを作って、病原体を捕らえます。
抗体にはIgA、IgM、IgEなど様々ありますが、病原体の最初の感染部位である粘膜で作られるのがIgA
抗体です。
特に腸にはパイエル板という免疫細胞の教育機関のような場所があり、そこで病原体の情報を学んだB
細胞は、その病原体に合わせたIgA抗体を作る細胞に変化して腸の絨毛部位へ移動し、IgA抗体を産生し
ます。そのIgA抗体は腸の内部へも放出されて病原体と結合するので、体内に病原体が入る前の段階で
阻止する事が出来るのです。
IgA抗体は正に免疫の最前線で戦うシステムです。
そのIgA抗体ですが、ビタミンB1が不足するとパイエル板が縮小しB細胞の数も減って産生量が非常に
少なくなる事が分かったそうです。これはパイエル板だけでなく、他の免疫組織である脾臓やリンパ節
も大幅に縮小され、これにより免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなるだけでなく、ワクチンも
効きにくくなるそうです。
ビタミンB1は腸からの吸収量が限られており、ある程度の量を超えるとそれ以上は吸収されにくくなり
ますがニンニクや玉ねぎなどに含まれるアリシンと一緒に摂るとアリチアミンとなり、腸管での吸収が
良く、血中滞留性も高まります。逆にハマグリやアサリなどの二枚貝に含まれるチアミナーゼはビタミ
ンB1を分解してしまいます。食べ合わせが大事ですね。
そしてもう1つの抗体産生に関わる栄養素、オメガ6のアラキドン酸について。
アラキドン酸と言えば、炎症を促進したり血液を固めたりする脂質メディエーターの元です。
現代人では過剰な人が多いので、出来るだけ控える方が良いとされている栄養素ですが、このアラキド
ン酸から作られるロイコトリエンB4という脂質メディエーターがIgA産生B細胞の細胞膜にある受容体
に結合する事でIgA抗体の産生を促す事が分かったそうです。
要は、アラキドン酸が不足するとIgA抗体の産生量が減ってしまうという事。
そう聞くと、ではアラキドン酸を積極的に摂れば免疫機能が高まるのでは?と思われるかもしれません
が、そう簡単ではありません。
アラキドン酸はIgA抗体産生には重要な役割をしますが、多過ぎるを過剰な炎症を起こしてしまします。
過剰な炎症や慢性炎症は、免疫システムの誤作動に繋がります。
実際新型コロナが重症化したり死に至ってしまった方の多くは、サイトカインストームという過剰な炎
症が原因です。
私たちの生体は、外から病原体などの異物が入って来るとオメガ6のアラキドン酸から脂質メディエー
ターを瞬時に作って戦い、退治し終わる頃に、オメガ3のEPAやDHAから抗炎症や炎症収束、組織の修
復をする脂質メディエーターを作って、体を元の正常な状態に戻します。
これは私たちが意識しない間も絶え間なく全身の細胞で行われています。
このように脂質は免疫システムを制御する重要な栄養素でもあるので、せっかく備わった免疫システム
を正常に働かせるためにも、オメガ3とオメガ6のバランスを常に整えておく事が大切ですね。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル
趣   味 脂質栄養学

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