発酵食品に含まれる有機酸で腸を健康に保ちましょう
腸を健康に保つために「有機酸」が活躍しています
皆さまは「有機酸」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?有機酸は、食品の中では酸味を示す成分として知られています。代表的なものでは、柑橘系の果物や梅干しなどに含まれる「クエン酸」、酢の主成分である「酢酸」、リンゴやワインに酸味を与える「リンゴ酸」などがあります。こうした有機酸に、近年多くの機能性が発見されています。
お腹の中が弱酸性になると腸が健康になり、アルカリ性になると腸が腐敗するといったことを見聞きすることがあります。これは、腸の中で有機酸が働くことで腸内が酸性になることが関係しています。腸の中に住んでいる腸内細菌の中で善玉菌と呼ばれている乳酸菌やビフィズス菌は、乳酸や酢酸といった有機酸を作ることができます。これらの有機酸は、腸内のpH(酸度やアルカリ度の指標)を6以下にして、弱酸性の状態を保ちます。実は、病原性菌と呼ばれている病原性大腸菌やサルモネラ菌、赤痢菌など、多くの悪玉菌は弱酸性の環境では生きていくことができません。そのため、腸内環境を有機酸で弱酸性に保つことは感染予防につながります。
また、腸が有機酸によって弱酸性に保たれることのメリットとして、ミネラルの吸収率がアップすることがあります。ミネラルは、体にとって微量ではありますが必要不可欠な栄養素です。日本では、特に子供や女性にカルシウムや鉄が不足しているといわれています。そのため、食事からきちんと摂取しなくてはなりません。
これらのミネラルは、腸内環境が悪化しているとうまく吸収されません。この吸収にも腸のpHが関係しています。ミネラルは弱酸性の環境で溶け込みやすくなり、腸から体内に吸収されます。つまり、有機酸は腸を弱酸性に保つことでミネラルの吸収も促進しているのです。他にも有機酸は、大腸の細胞のエネルギー源、がん細胞の抑制、コレステロールの合成抑制、血行促進などの機能が数多く報告されています。
乳酸やピルビン酸の摂取により腸の免疫が高まります
こうした中、腸内細菌が作る乳酸やピルビン酸といった有機酸により、腸の免疫が活性化されることが2019年に発表されました。腸には数多くの種類の免疫細胞が存在していますが、中でも小腸の自然免疫細胞であるマクロファージは、腸に侵入した病原性菌やウイルスを捕まえて退治する役割を担っています。今回発表された論文によると、乳酸やピルビン酸を摂取したマウスは病原性菌の一種であるサルモネラ菌に対する免疫反応が強化され、サルモネラ菌への抵抗力が高まることが報告されています。これまで、この自然免疫が働く詳しい仕組みは不明でしたが、この発見によって乳酸やピルビン酸を摂取することで免疫力が高まるというメカニズムが明らかになりました。
発酵食品にも多くの種類の有機酸が含まれています
私たちが普段の食生活の中で有機酸を効率よく摂取する上で、発酵食品が鍵を握っています。冒頭にも書きましたが、酢やワインにも有機酸は含まれています。さらに、発酵に乳酸菌が関わる味噌や醤油にも、有機酸の一種である乳酸が産生されます。漬物が酸っぱい味がする理由も、乳酸菌が発酵によって乳酸や酢酸、リンゴ酸などを作り出すためです。有機酸は調理によって壊れたり減ったりするものではありませんので、発酵食品や発酵調味料を上手に食卓に使うことで、食卓から有機酸を摂取することができます。
感染症対策に注目が集まる中、有機酸を含む発酵食品は免疫力を高めるためにも欠かせない食品なのです。
(参考文献)
Nature 566, 110-114 (2019)