『がんの食事療法』
先日、知り合いの栄養カウンセラーが主催する『がんの食事療法 ~実践編~』というオンラインセミ
ナーがあり、その中で30分間『がん治療における油の摂り方とオメガ3の重要性』というテーマで、癌
治療における脂質の摂り方についてお伝えしました。
150名の受講者さんのうち3分の1が、ご自身またはご家族が癌の闘病中との事で、かなり緊張感のある
セミナーでしたが、終了後に沢山の方から感謝のメールをいただき、本当にやってよかったと感じてい
ます。
今、日本では癌の増加と若年化が問題になっています。実際自分の周りでも若くして癌になる人が増え
ていることを感じます。一方、アメリカでは癌は減少傾向にあります。
また日本でも、癌の罹患者数は多いものの、回復して元通りの生活を送れる方もいます。
癌になる・ならない、癌になっても治る・治らない。この違いは何なのでしょうか?
かつて癌は遺伝的な要素が大きいと言われていました。しかしながら現在では、遺伝よりも生活習慣の
影響が大きいという事が分かっています。
生活習慣の柱は、食事・運動・睡眠ですね。どれも重要ですが、特に大きく影響するのが食事です。
癌の種類によって異なるものもありますが、赤身肉の摂り過ぎと大腸癌、飲酒と肺がんの関係は知られ
る所ですが、基本的には、月並ながら『バランスの良い食事』が癌の予防に役立ちます。
しかしこれは予防食であり、治療食ではありません。予防食と治療食は全く異なるものなのです。
既に癌がある場合、癌の増殖や転移を抑えることが重要になります。
癌の食事療法は様々ありますが、今回取り上げられていたのは大阪医大で実際に患者さんを対象にして
取り組まれて良好な結果が見られた食事療法です。
具体的には以下のような状態をつくっていきます。
①糖質を極力控え、糖質の代わりにケトン体を増やす。
②炎症を抑える
③酸化ストレスを減らす
④免疫を活性化させる
などです。
脂質は①と②に深く関与します。
まず①について
癌の種類やステージによって異なることもありますが、大部分の癌細胞は糖質をエネルギー源として増
殖・転移していきます。ですので、まずは癌のエネルギー源を断つことが最重要になります。しかしな
がら、他の正常細胞も主に糖質をエネルギー源にしているため、糖質を断つだけでは正常細胞まで弱っ
てしまいます。
ここで必要なのが、癌細胞のエネルギー源にはならず、正常細胞のエネルギー源になるもの。
それがケトン体です。
ケトン体は、ココナッツオイルがブームになった時に聞かれたことがあるかもしれません。
ケトン体は中鎖脂肪酸を摂ると肝臓で作られ、肝臓から全身に運ばれて細胞のエネルギー源となります。
ただ、糖質を摂取している状態では中鎖脂肪酸を摂ってもケトン体になりにくいので、ケトン体を増や
したい場合には同時に糖質制限をする必要があります。
癌細胞でも稀にケトン体やアミノ酸をエネルギー源とするものもありますが、ほとんどの癌細胞は糖質
をエネルギー源として増殖・転移するので、糖質を出来る限り経ち、中鎖脂肪酸を摂取することでケト
ン体を増やし、正常細胞のみがエネルギーを得られる状態を作ることが重要になります。
中鎖脂肪酸とはカプリル酸とカプリン酸という脂肪酸のことです。
MCTオイルとして販売されているもののほとんどが、この2つの脂肪酸で出来ています。
MCTオイルは、すぐに効率の良いエネルギー源になるのでアスリートに使われていたり、ダイエットの
ために摂る方も多いですが、その場合15g前後が適量になります。
しかし、癌治療のために摂る場合(大阪医大の臨床例によると)、1日30g~80gを摂ります。
これは、糖質を制限することによるエネルギー不足や、癌による体重減少を防ぐこと、また効率的にケ
トン体を増やすことを目的としています。
この糖質とMCTオイルの摂り方だけ見ても、通常食や予防食と治療食が大分異なることが分かると思い
ます。
病気予防や健康維持のために大切なのがバランス良く食べることなのに対して、治療食はかなりバラン
スの悪い摂り方をします。
これは、不自然な状態になってしまった体内を元に戻すためのものだから。
自然な状態を取り戻すまでの期間限定の食事だと捉えると、辛い食事療法にも光が見えるのではないd
しょうか。
次回は『②炎症を抑える』と脂質について書きますね。