免疫力を整えて新型コロナウイルス対策
新型コロナウイルスの症状に腸内細菌が関わっている?
新型コロナウイルスが世界的に流行する中、日本では緊急事態宣言が解除された後も感染者は引き続き増減を繰り返しています。新しい生活スタイルが問われる中、感染予防の一環として「免疫力」に改めて注目している方も多くいらっしゃいます。今回は、私たちの腸に住んでいる腸内細菌と新型コロナウイルスとの関係について考えてみたいと思います。
新型コロナウイルスは、主に呼吸器系を攻撃することが分かっています。感染しても大部分の人は無症状〜軽い上気道炎症状だけで終わりますが(第1相)、一部の人では観戦後7〜10日目くらいに肺炎を発症し重症化することがあります(第2相)。さらにその一部は急速に進行し重い呼吸不全に、症状が思い場合は死に至る場合があります。第1相から第2相に移行する人の割合は年齢にもよりますがおよそ2割くらいで、悪化の危険因子は、高齢、糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病などで、さらに肥満も言われています。
実は、過剰な免疫を抑える薬(免疫抑制剤)を使用中の場合はリスクには挙げられていません。この点から、免疫と新型コロナウイルス感染症の重症化リスクについて、海外でも注目されるようになっています。
また、新型コロナウイルス感染者の便の中に、このウイルスが存在することが報告されており、消化器症状を示す場合があります。また、一部の患者では乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が腸内細菌から減少していることも示されています。
これらは、腸内細菌が新型コロナウイルスを直接的に防御していることを表しているわけではありませんが、腸内細菌と免疫との間に、とても密接な関係があることを示しています。バランスの取れた健康的な腸の微生物たちは、免疫を良い状態に保ちます。
免疫力は高すぎても弱すぎても上手く機能しません
一般的に、「免疫力を高めましょう」と言われることが多いのですが、実は免疫は「炎症」と「抗炎症」のバランスによって成り立ちます。乳酸菌など、免疫力を高めると言われる成分は、腸などの免疫細胞を刺激して病原性菌やウイルスと戦う物質を作らせることで感染に対抗します。一方で、高まりすぎた免疫は、私たちの腸や肺などにある自分の細胞を傷付けてしまいます。
本来は、抗炎症タイプの免疫が監視することで過剰な免疫を抑え、免疫のバランスは保たれています。新型コロナウイルス感染後に第2相に移行する人は様々な基礎疾患や肥満の場合が多いのですが、これらの症状では抗炎症タイプの免疫が上手く機能せず、全身に炎症反応が蔓延しているのではないかと予測されています。
実際、新型コロナウイルスの重症患者において、血液中の抗炎症性の免疫の数値が明らかに低下していることも報告されています。
腸内細菌にエサを届けて免疫バランスを整えよう
この抗炎症性の免疫をきちんと保つのが腸内細菌です。私たちが食事で口にしている様々な野菜や果物、海藻、キノコ、ナッツ、穀物に含まれる食物繊維や多糖類は、善玉の腸内細菌にとってとても良い栄養源となります。この栄養源を微生物が腸内で利用(発酵)することで、酪酸、酢酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸が産生されます。
この短鎖脂肪酸は、免疫細胞を抗炎症タイプに変換する作用があるため、食事を整えることで免疫力のバランスを整えることができます。マウスでの研究ですが、発酵性の食物繊維を8週間摂取した場合、インフルエンザウイルスに感染したマウスの肺の抗炎症細胞が増加することも報告されています。
免疫力を整える上で、もちろん乳酸菌などの免疫力を高める成分を摂取することは感染防御においてとても大切です。一方で万が一感染した場合、それを重症化させないためにも、抗炎症を意識した食生活が欠かせません。
そして、抗炎症に着目した食生活は、肥満や生活習慣病リスクを減らすためにも役立ちます。人において腸内細菌と新型コロナウイルスの関係性が完全に実証されたわけではありませんが、消化管の健康をサポートする上で乳酸菌などのプロバイオティクス、食物繊維などのプレバイオティクスの力を借りて腸内細菌の世話をすることで、免疫バランスを良好に保っていきましょう。
(参考文献)
Nat Rev Immuno 20 (2020), JGHS 35 (2020), Immunity 48 (2018), Front Cell Infect Microbiol 19 (2020)