『免疫と栄養』
新型コロナの感染者数がまた徐々に増えて来て、ワクチンを待つ声がさらに大きくなっているように感
じます。
しかしながら新型コロナウイルスはDNAではなくRNAを遺伝子に持つウイルスで、RNAウイルスの場
合効果的なワクチンを作るのは難しいことが知られています。
これはDNAが二重らせんという安定的な構造を持つのに対し、RNAは一重らせんのため構造が不安定
で遺伝子が変異しやすいためです。インフルエンザウイルスも同じRNA遺伝子ウイルスであり、ワクチ
ンが効かない場合が多いのは流行している間にも遺伝子が変異してしまうことが原因です。
このことからも、ワクチンに依存するよりも他の方法で感染・重篤化の予防をすることが重要だと思い
ます。
そもそもワクチンは、ウイルスが体内に侵入した後に抗体を作るのを助けるためのものですが、本来私
たちの免疫システムにはウイルスを体内に入れないようにする仕組みも備わっているのです。それが粘
膜免疫です。免疫の最前線と呼ばれる粘膜免疫は、体内に侵入しようとするウイルスや細菌などの異物
に対してIgA抗体を作り、異物が体内に侵入するのを防ぎます。
私たちの体は口から肛門まで1本の管に例えられ、口の中から食道、胃、腸などの消化管は体の内側の
ようで、実は外側です。管の内側は粘膜で出来ていて、ここがIgAの働く舞台となります。中でも腸に
は非常に多くのIgA産生細胞が存在します。
腸のパイエル板というリンパ組織にウイルスや細菌などの病原体が取り込まれ、その後免疫の司令塔で
ある樹状細胞に捕らえられてT細胞やB細胞に情報伝達されます。情報を受けたB細胞は、その病原体に
特異的なIgA抗体を産生する細胞に変化し、IgA抗体を腸の管腔内に分泌します。このIgA抗体が粘膜上
で病原体と結合することで、上皮細胞へ病原体が結合するのを防ぎます。
感染の第一ステップである上皮細胞への病原体結合を防ぐことで、病原体は体内に侵入することが出来
なくなります。これは感染症からの生体防御にとって非常に重要です。
同様のシステムが、新型コロナウイルスの初発感染部位である呼吸器をはじめ他の粘膜組織にも存在し
ているため、IgAを介した防御システムは新型コロナに対しても非常に重要だと考えられています。
さて、IgAを作るのはB細胞という免疫細胞ですが、このB細胞は病原体に対して迅速にIgA抗体を作る
ためにエネルギーであるATPを蓄えています。そして、病原体が入ってきた時にはすぐにそのATPを
使って、IgA抗体を作ります。
ですので、免疫の最前線である粘膜免疫が正常に働くためには常にB細胞をATPで満たしておかなけれ
ばなりません。このATPはどこから作り出すかと言うと、アミノ酸や脂肪酸を原料としてクエン酸回路
というエネルギー産生回路を回して作ります。
このクエン酸回路を回すために重要な栄養素はビタミンB1です。ビタミンB1はクエン酸回路を回す酵
素の補酵素となる栄養素なので、ビタミンB1が欠乏するとB細胞に十分なATPが蓄えられず、細胞死を
誘導します。
実際にマウスの研究ではビタミンB1が欠乏すると、腸の免疫組織であるパイエル板が縮小し、そこに存
在するB細胞が減少することが分かっています。また脾臓やリンパ節などパイエル板以外のリンパ組織
も同様のことが起こり、免疫力が低下して感染症にかかりやすい状態になります。
このようにビタミンB1という一つの栄養素が足りないだけで生体防御システムが正常に働かなくなるの
で、私たちにとって必須栄養素がいかに大事かが分かりますね。
ビタミンB1は豚肉や鰻、大豆製品、米ぬかなどに豊富に含まれます。
ビタミンB1はニンニクやニラに含まれるアリシンと一緒に摂ると、アリチアミンという腸管での吸収が
良く血中滞留性の良い物質になります。逆にハマグリやアサリなどの貝類や鯉などの淡水魚はビタミン
B1を分解するチアミナーゼを含みます。
このような食べ合わせにも気をつけて、効率的にビタミンB1を摂理、粘膜免疫力を高めていきましょう。