【専門家ナビ】地曳直子先生

『抗ウイルス作用と栄養療法』

前回は新型コロナウイルスとビタミンDについて書きました。今回は新型コロナウイルスの重症化と脂
質についての考察を書きます。

その前に、まず脂質と免疫について。
オメガ3脂肪酸の代表と言えば、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)ですね。
EPAは血液サラサラ、DHAは脳機能を維持する働きがあることはよく聞くと思いますが、実はどちらも
免疫反応にも深く関わっています。
私たちのからだには、常に一定の状態を維持する機構があります。
ホメオスタシス(恒常性)という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、それを支えているのが
自律神経系、内分泌系、免疫系というシステムです。
免疫システムは外部から侵入してくる菌やウイルスなどの異物や体内で出来るがん細胞などを排除して
身を守る防御システムです。
免疫の主役は免疫細胞と呼ばれる白血球の単球やリンパ球、T細胞、B細胞、NK細胞などの血球細胞で
す。
これらの免疫細胞は互いに情報伝達をしながら、直接的に異物を攻撃したり、炎症物質や抗体を作って
戦います。
多くの免疫反応の急性期または初期においては炎症を起こす物質を産生・放出し、炎症により異物を攻
撃します。そして異物を退治し終わると抗炎症物質を産生して炎症を終わらせるというのが一連の免疫
応答です。
炎症を起こす物質にはインターロイキン(IL)類やTNF-αなどの炎症性サイトカインと、プロスタグラン
ジン類やロイコトリエン類などオメガ6のアラキドン酸由来の脂質メディエーターなどがありますが、
中でもアラキドン酸由来の炎症性脂質メディエーターは種類も多く、非常に強い炎症作用があります。
炎症性サイトカインや炎症性脂質メディエーターの働きによって炎症を起こして敵を退治した後、今度
は抗炎症性サイトカインや、抗炎症・炎症収束脂質メディエーターを産生して炎症を終わらせます。
この抗炎症・炎症収束脂質メディエーターの元となるのがオメガ3のEPAとDHAです。
このように、オメガ6のアラキドン酸からは炎症惹起作用のある物質が、オメガ3のEPA・DHAからは
抗炎症・炎症収束作用のある物質が時間差で産生され、炎症反応を調整することで免疫応答を制御して
いるのです。
脂質メディエーターによる炎症と抗炎症(炎症収束)の調整は、痛みや発熱など意識出来る場合だけでな
く、私たちが気づかないうちにも全身で微小な炎症を起こしたり炎症を終わらせたりして恒常性を保っ
ています。
なぜならば、脂質メディエーターの元となるアラキドン酸・EPA・DHAは、全身すべての細胞の細胞膜
に配置され、異物に対してすぐにその場で反応出来るようになっているから。細胞膜は言わば脂質メ
ディエーターのストックヤードでもあるのです。
ここで重要なのが、アラキドン酸とEPA・DHAの量的なバランスです。
もしも細胞膜にアラキドン酸が豊富にあり、EPA・DHAが少ない状態だったらどうなるでしょうか?
炎症を起こすことは出来るけど、終わらせることが出来なくなって、過度な炎症や慢性的な炎症に繋
がってしまいますよね。
ご存知のようにアラキドン酸もEPA・DHAも必須脂肪酸であり、体内で作ることが出来ません。
と言うことは、バランスを取る方法はたった一つ、摂取する量のバランスを整えることだけです。
因みに、バファリンやエスタックイブ、ロキソニンなどの痛みや発熱などを抑える薬も、花粉症などで
飲む抗アレルギー薬も、アラキドン酸から炎症性脂質メディエーターが産生されるのを抑えることで痛
みや発熱、痒みなどの炎症を抑える薬です。
これからもしそういう薬を飲んで痛みが治まったら「アラキドン酸から炎症物質が作られるのが止まっ
たんだな」と想像してみてください。
同時に、本来私たちのからだには、EPAやDHAから抗炎症・炎症収束物質を作って炎症や痛みを抑えら
れるはずだということを思い出してみてください。
そして、そのバランスは自分自身の意志で整えることが出来ることも。
きっと薬以外で痛みを抑える方法が見つかると思います。

さて、新型コロナウイルスの重症患者またはコロナによる肺炎や心血管疾患で亡くなった方を調べると、
ウイルスの直接的な作用よりもサイトカインストームが原因であることが分かってきました。
サイトカインストームとは炎症性サイトカインが嵐のように産生・放出され、激しく炎症が起こってい
る状態であり、前述のようにEPA・DHAから作られる抗炎症・炎症収束メディエーターは非常に強力な
ため、炎症の嵐であるサイトカインストームに対しても大いに期待出来ると考えられます。
大事なのは、かかってから摂るのではなく、常日頃から必須脂肪酸の摂取バランスを意識して整え、私
たちの体に本来備わっている炎症と炎症収束という一連の免疫反応を行える状態にしておくことです。
細胞ひとつひとつが、細胞膜に配置された脂肪酸からメディエーターを作って炎症を制御して、私たち
の命を守ってくれている。なんだか愛おしくなりますね。
その子たちがちゃんと働けるように、材料を届けよう。そんな風に思いながら、脂質をとってみてくだ
さい。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル
趣   味 脂質栄養学

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