その不調の原因は鉄不足!? 貧血症状に要注意
鉄不足によって生じる貧血は体の不調に深く関連しています
鉄は生物が生きていくために欠かせない成分です。これは人間でも微生物でも同じこと。それにも関わらず、鉄の不足は人間の栄養不足のなかで最も多い症状で、世界的に鉄の摂取が推奨されています。日本人女性の4人に1人は鉄不足な状態(2人に1人が貧血予備軍)であるともいわれています。さらに、近年は男性にも鉄不足が目立ち始めています。
鉄が不足した際に最も多く生じる症状が貧血です。実は、鉄は体の中で約65%が血液に含まれるヘモグロビンの形で存在しています。貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンの量が不足している状態を現しています。なかでも、ヘモグロビンは体に酸素を運搬する大切な役割を担っています。つまり、鉄が不足すると酸素がきちんと全身に運ばれなくなってしまい、体が酸欠状態になるのです。
酸素は細胞の中でエネルギーを作るために欠かせないため、不足すると体がダルくなったり疲れやすくなったりします。また、寒さを感じたり手足だけが冷えたりという症状も出やすくなります。さらに、体中の細胞が軽い酸欠になるため、朝が辛い、たくさん寝たのに昼間眠たいといった症状が出ることがあります。他にも「氷食症」との関連も指摘されています。氷を無性に食べたくなる病気で、原因は不明ですが鉄不足によって食嗜好が変わり無味の氷を欲するという説があります。
特に女性は鉄不足が深刻。鉄が不足する3つの原因とは!?
鉄が不足する原因は大きく分けて3つあります。1つ目は「摂取量が不足する」ためです。バランスの悪い食事や過度なダイエットをしていると、適切に鉄を摂取できません。2つ目は「必要量が増える」ためです。特に女性の場合は妊娠や出産、授乳期において赤ちゃんのために多くの鉄を必要とします。3つ目は「損失量が増える」ためです。男性の場合は毎日約0.6 mgの鉄を排出していますが、女性は月経時に失血が加わるため、平均して1日あたり1.3 mgの鉄を失います。
他にも出血が起こった時は鉄の排出量が増加しています。さらにビタミンB12の不足や葉酸の不足によっても鉄不足は起こりますし、激しいスポーツの際にも汗とともに鉄が失われるので、運動の際には鉄を多く含む食材が必要となります。
「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」を理解して上手に鉄を摂取しましょう
鉄不足を解消するためには、まずは鉄を含む食材を摂取することが大切です。ただし、鉄には動物性の肉や魚などに含まれる「ヘム鉄」と、植物性の野菜や海藻などに含まれる「非ヘム鉄」があり、吸収率に違いがあります。鉄は主に小腸で吸収されますが、ヘム鉄は10〜20%の吸収率なのに対し、非ヘム鉄は1〜6%と吸収率が低下します。ヘム鉄は水に溶けやすい形をしているため、小腸の細胞からそのまま体内に吸収できます。一方、非ヘム鉄は吸収されにくい形をしており、消化管内で消化酵素やビタミンC、胃酸などによって変換されることで初めて体内に吸収されます。
日本ではヘム鉄や非ヘム鉄の吸収率を考慮して、18歳以上では食事からの1日あたりの推奨摂取量を男性で7.0〜7.5 mg、女性では月経なしで6.0〜6.5 mg、月経ありで10.5 mgと設定しています。10代の育ち盛りの時にはさらにプラス3〜4 mgを必要とします。
日本では肉類よりも野菜や穀物、海藻からの鉄を摂る割合が多いため、鉄の摂取の多くが非ヘム鉄と考えられています。そのため、鉄の摂取量が一見多く見えても吸収されている量は少ない可能性もあります。非ヘム鉄を効果的に摂取するためには、ビタミンCやたんぱく質を一緒に摂取することがおすすめです。
腸の状態も鉄の吸収に関係。最新の研究情報
近年の研究の結果、新たな事実もわかってきました。腸内細菌がいない無菌マウスでは腸内の鉄の量や吸収量が少ないことがわかりました。また、無菌マウスに腸内細菌を移植すると、鉄の量が増加することも報告されています。さらに、腸に存在する4種類の菌(大腸菌、酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌)が吸収率の悪い鉄を吸収しやすい形に変換していることも発表されています。
一方で、鉄は悪玉菌の餌になることもあります。腸内細菌のバランスが悪い状態で鉄のみを摂取すると感染症が悪化するというデータもあります。ただし、この結果の中ではオメガ3脂肪酸を一緒に摂取すると改善結果が得られたそうです。また、血中の鉄濃度が過剰になりすぎると、がんの発生リスクが増加するという結果もあります。そのため、過剰症には注意が必要です。まずは、不調の原因が鉄不足かどうか、鉄を含む食材やビタミンB12、葉酸などの摂取を一定期間試してみて、ご自身の体の変化を確認してみましょう。体内の鉄量の測定には血液検査もおすすめです。献血や健康診断など、検討してみいてはいかがでしょうか。
<参考文献>
The FASEB Journal. DOI: 10.109618.15-276840 (2015)
J Nutr. 145, 1735-9 (2015)
Cancer Res. DOI: 10.1158/0008-5472. CAN-14-0360 (2014)