【専門家ナビ】地曳直子先生

『腸の炎症と脂質』
先日、「オメガ3脂肪酸の疾患への応用」という講演会に参加しました。
3名の先生がそれぞれ以下のようなテーマで講演されました。
・「お腹の調子を整える新規オメガ3脂肪酸の発見」(東京大学 村田幸久先生)
・「脂質代謝異常を伴う血管疾患に対する魚油の効果とその作用機序」(近畿大学 財満信宏先生)
・「魚油の温故知新~熱産生亢進と食後高脂血症改善」(東京農大 高橋信之先生)
どれも大変興味深く、近年の脂質研究分野が腸内細菌と同じく急速に発展していることを驚くとともに、
改めて脂質の重要性を感じた内容でした。
その中で特に、「お腹の調子を整える新規オメガ3脂肪酸の発見」は、近年急増しているクローン病な
どの炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)といった腸の炎症疾患と脂肪酸の関係に関する研究内容
だったので、是非みなさんに知ってもらいたいな、と思いました。
研究内容を簡単にまとめると
腸の炎症を起こすモデルのマウスを使って炎症初期、悪化期、回復初期、回復後期それぞれのステージ
で腸に出てくる脂質を網羅的に解析したところ、オメガ6系の代謝物37種類、オメガ3系の代謝物32種
が大きく増減した。
オメガ6のアラキドン酸からの代謝物は炎症の初期~悪化期で増加し、回復期になると減る。
一方のオメガ3系の代謝物は炎症初期はほとんど変動がなく、悪化期では少し減り、回復初期から後期
にかけて増えて、それを過ぎると減る(元に戻る)。その中で特に炎症が治っていくにつれて増える
EPAの代謝物「5,6-DiHTE(ダイヒート)」を発見し、更にメカニズムの解析をしたところ、5,6-DiHETE
の作用点は血管内皮細胞に発現しているTRPV4(機械刺激、温度変化、浸透圧の変化に反応するチャネ
ル)をブロックすることで炎症を抑える働きを持つことが明らかになった。
また同様に、花粉症や食物アレルギー(アナフィラキシー)も抑えることが分かった。
というもの。
以前からオメガ6系の代謝物が炎症を起こしてオメガ3系の代謝物が炎症を抑えたり終わらせることは
知られていますが、近年の分析機器の発展により、代謝物の種類の解明や、更に代謝酵素、受容体の特
定、メカニズムの解明などより詳細に分かるようになりました。
これらの最先端の研究結果は、主に薬やサプリメントの開発のために使われます。例えば今回の例で言
うと、腸の炎症を終わらせる働きがあると分かった5,6-DiHTEというEPAの代謝物を人工的に作り、そ
れを投与するという方向へ向かいます。
これは、増加する腸の疾患で悩む患者さんにとって大きな希望となると思うし、とても素晴らしいこと
だと思うのですが、一方で少し残念な気持ちにもなります。
なぜならば、 5,6-DiHTEは本来私たちの体の中で、自分の代謝酵素を使って作るものです。慢性的に腸
が炎症を起こしている人は、それが十分に作られていない可能性があるのです。
なぜならば、 5,6-DiHTEは本来私たちの体の中で、自分の代謝酵素を使って作るものです。
慢性的に腸が炎症を起こしている人は、それが十分に作られていない可能性がある訳で、作られない原
因としては、遺伝的もしくは(栄養不足などの)環境的に、酵素が働きにくい状態にある場合もあります
が、もし酵素がしっかり働く状態であっても、元となるEPAがなければ5,6-DiHTEは作りようがないの
です。
今回の研究以外にも、近年食物アレルギーを抑える(または改善させる)脂質代謝物として17,18EpETE
という代謝物が、心臓を保護する脂質代謝物として18-HEPEという代謝物がそれぞれ見つかっています
が、これらもEPAから体内で作られる物質なので、同様にEPAが体の中に足りていないと作る事が出来
ないのです。
またDHAからも同じように炎症を収束させる様々な代謝物が見つかっています。
という事は逆に、原料となるEPAやDHAがあれば、薬を使わなくても自分の力で炎症を抑えられるのに、
原料が足りなくて炎症が続いている可能性があるという事です。
実際昨年から私が代表を務める日本リポニュートリション協会では体内の脂肪酸バランスを測る血液検
査を受け付けていますが、多くの人がオメガ3不足の状態です。
このような最新の研究発表を聞いたり、状況を把握することで、私たちが食事で出来ることが見えてき
ます。
研究者やお医者さんではなく、日々の食を伝える立場の私たちにしか出来ない大切な事がまだまだあり
ますね。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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