【専門家ナビ】地曳直子先生

『スポーツと脂質栄養』
先日、日本脂質栄養学会に参加しました。
その中のシンポジウムの1つのテーマが、来年の東京オリンピックにちなんで「スポーツと脂質栄養」
でした。
スポーツ栄養学と言うと、筋肉をつけるためにタンパク質を摂るとか、運動時のエネルギー源となる糖
質(グリコーゲン)を通常時より多く蓄えるカーボローディングという食事法などはよく知られています
が、脂質の摂り方に関してはまだ知らない方の方が多いようです。
スポーツ栄養学において注目される脂質は大きく2つ。
1つは効率の良いエネルギー源としての中鎖脂肪酸、もう1つは持久力の向上や筋損傷の予防や筋肉痛
の緩和のためにEPAです。
今回の学会ではEPAの作用に関する以下のような発表がありました。
アスリートを対象とした介入研究で、EPAを高含有した魚油を摂取した群はプラセボ群に比べて運動時
の酸素摂取量が減少した。また血管内皮機能の指標の1つであるFMD(血流依存性血管拡張反応=血管
の広がりやすさの指標)の改善とともに、全身持久力の指標である最大酸素摂取量がEPA高含有魚油の摂取により向上した。
これらは運動効率の向上、全身持久力の向上を示すものである。
また、全身持久力の向上は、運動時の辛さやきつさを示す自覚的運動強度の改善にも関係し、この主観
評価においてもEPAの摂取の有効性が示された。
これらのメカニズムとして、EPAを摂取すると赤血球膜にEPAが増え赤血球の柔軟性が増すことと、血
管内皮機能が向上するため、末梢への血液循環が改善されて酸素を運びやすくなる。その結果持久力が
向上すると考えられれる。
筋肉への作用としては、EPA摂取群とプラセボ群に分け、8週間後に運動負荷をかけて筋損傷・筋肉痛
を起こさせて、その後5日間に渡り状態を観察した研究では、EPA摂取群で筋肉の痛みレベルが大きく
軽減し、筋肉痛からの回復が早まることが分かった。また負荷によって低下する最大筋力もEPA摂取群
で筋力の低下が和らげ回復を早めるという結果が出ている。更に、負荷によって制限される関節の可動
域の測定でも、EPA摂取群では関節可動域が維持されている結果が得られた。
血液検査においても、通常運動負荷をかけると上昇する筋損傷の血中マーカーであるミオグロビン、ク
レアチニンキナーゼが、EPAを摂取したグループはこの上昇を有意に抑制されていた。
このことは、EPAが筋肉の細胞の膜に入り込み、筋肉を保護し、筋肉の損傷を抑える働きがあるのでは
ないかと推測する出来る。
また同じく運動負荷後に上昇するIL-6やTNF-aなどの炎症性サイトカインも、EPA摂取で有意に抑制さ
れる。
EPAには抗炎症効果があることが分かっており、筋損傷による炎症についても抑える効果が見られたと
考えられる。
このようにEPAは持久力の向上や筋障害の予防や緩和といった作用があります。
その他にも筋肉のしなやかさを保ったり、怪我をしにくくなるなどで海外のプロアスリートはだいぶ前
からオメガ3に注目しています。
2010年~2014年までサッカー日本代表の監督を務めたザッケローニ監督は当初から選手にオメガ3豊
富な食事を勧めていたことが知られているし、ヨーロッパで活躍する長友選手もオメガ3を積極的に
摂っていることを著書に書いています。
でも残念ながら、今回の学会で発表された先生方も仰っていましたが、日本ではトップアスリートでも
まだまだ脂質の重要性を知らない人が多いのが現状です。
私自身も時々、トレーナーさん向けの脂質栄養講座をしますが、脂質をカロリー源としてしか捉えてい
ない方が多くて残念です…。
東京オリンピックもあるし、ぜひスポーツ栄養の分野にも脂質の重要性を広めて行きたいですね!

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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