『植物油の臨界温度と加熱毒性』
今回は植物油の加熱調理について書きます。
みなさん既にご存知の通り、植物油は種類によって脂肪酸組成が異なります。
例えば、オメガ3系オイルのえごま油や亜麻仁油にはα-リノレン酸が多く、オメガ6系オイルのグレー
プシードオイルや大豆油、コーン油、それらをブレンドしたサラダ油にはリノール酸が多く、オメガ9
系のオリーブオイル、菜種油、米油にはオレイン酸が多く含まれます。
このグループごとに「オメガ3系は酸化しやすいので加熱調理出来ない」「オメガ9系は酸化しにくい
ので加熱調理向き」などと聞いたことがあるかと思います。
確かに大枠では間違えではありませんが、実はオイルによってそれぞれ加熱の向き不向きは異なります。
その基準となるのが臨界温度。
油脂の臨界温度とは、油脂を加熱した時に生体にとって有毒な物質が発生し始める温度です。各油脂の
臨界温度は、含まれる脂肪酸とその他の微量成分によって決まるので、同じグループのオイルであって
も、臨界温度は異なります。
全てのオイルの臨界温度が分かっている訳でなく、また同じ植物から作られたオイルであっても、搾油
方法によって残留するファイトケミカルやビタミン類などの抗酸化物質の量が違うため確実な臨界温度
は分かりませんが、以下が代表的なオイルの臨界温度です。
コーン油 140℃
ごま油、グレープシードオイル、大豆油 150℃
ひまわり油 160~170℃
オリーブオイル 210℃
また、この臨界温度を超えて加熱した際に発生する有害物質は脂肪酸によって異なります。日常的に最
も私たちが触れる機会が多い有害物質としては、オメガ6のリノール酸から生成されるアルデヒド類の
ヒドロキシノネナールでしょう。以前のコラムでも書きましたが、ヒドロキシノネナールは神経毒性、
細胞毒性があり、アルツハイマーの原因物質とも言われています。
オメガ3のα-リノレン酸からはヒドロキシヘキサナールやアクロレインが生成されます。ヒドロキシヘ
キサナールはヒドロキシノネナール同様、神経毒性や細胞毒性があります。アクロレインは油酔いの原
因物質として知られていますが、それだけでなく、アクロレインは生体内の分子と反応し、強い毒性を
示します。癌やアルツハイマー、脳伷塞など、酸化ストレスを原因とする疾患においても、細胞でアク
ロレインが増加し、酸化ストレスを亢進させると考えられています。
天ぷらや唐揚げなどは180℃でぐらいで揚げるとカラッと美味しいので、ほとんどの油脂で臨界温度を
超えてしまいますね。
また、中華料理でフライパンにごま油を熱して、煙が上がるほど高温にする調理法もありますが、これ
も同じく臨界温度を超えています。
オメガ3系のオイルで揚げ物や炒め物などの加熱調理をする人はほとんどいないと思いますが、実は大
豆油には7%程、菜種油には10%程オメガ3のα-リノレン酸が含まれるので、これらのオイル、または
これらをブレンドしたサラダ油で高温調理をするとアクロレインが発生します。
東京工科大学が食用油脂を用いてアクロレインの発生を調べた研究では、菜種油や大豆油で多く、逆に
コメ油やハイオレイックヒマワリ油で少なかったとの結果が出ています。これはα-リノレン酸の含有量
が大きく影響しています。
先述の脂肪酸によるオイルの分類は「どの脂肪酸を多く含むか」で分けたものであり、菜種油はオメガ
9系、大豆油はオメガ6系で、どちらも加熱調理可能と言われているグループ。
ですが、アクロレインの発生に関しては「臨界温度が何度で、オメガ3をどのぐらい含むか」と言う観
点で見ることも重要です。
何れにしても、揚げ物は健康にとってマイナス面があるのは否めないので、昔の日本食のように、ハレ
の日の食べ物として、時々美味しくいただくのがちょうど良いかもしれませんね。