【専門家コラム】地曳直子先生

『トランス脂肪酸フリーのマーガリンは体に良い?』
最近トランス脂肪酸フリーのマーガリンやショートニングを見かけることが多くなりました。
トランス脂肪酸を避けるためにこれらの加工油脂を選ぶ健康志向の高い人が増えているようです。
一見体に良さそうなトランス脂肪酸フリーの加工油脂ですが、実際はどうなのでしょうか?
今回は、これらの原料として多く使われているパーム油について書きます。
パーム油はアブラヤシという植物からとれる油脂で、飽和脂肪酸のパルミチン酸が約50%、一価不飽和
脂肪酸のオレイン酸が約40%という脂肪酸組成です。これは牛脂に近い脂肪酸組成で、飽和脂肪酸を多
く含むため常温で固体です。
通常液体の植物油からマーガリンやショートニングなどの半固体~固体の油脂を作る場合は部分的に水
素を添加する方法が用いられ、その際に一部がトランス化してしまうため、トランス脂肪酸を含む油脂
が出来てしまうのですが、パーム油の場合は元々固体なので水素添加をする必要がなく、トランス脂肪
酸フリーのマーガリンやショートニングを容易に作ることが出来るのです。
アブラヤシからは実から搾るパーム油と、核から搾るパーム核油の2種類がとれます。1年中収穫出来
る上に栽培面積当たりの収穫率が非常に高く、単位面積当たりの生産量は菜種油や大豆油の8倍~10倍
が可能なため安価で取引されます。また飽和脂肪酸が多いため酸化しにくく安定性が高いこともあり、
食用以外にも石けんや洗剤類、化粧品などにも多く使われており、世界で最も生産・消費されている植
物油でもあります。メーカーにとっては、とても都合の良い油と言えますね。
日本では輸入の80%が食用で、消費量は1位の菜種油(42%)に次いで第2位(24%)。
自分はそれほど食べていないな~と思われるかもしれませんが、パーム油は家庭用の調理油というより
も企業が加工食品を作る際に使われることが多いです。
酸化しにくくサクッと揚がるので、ポテトチップやドーナツ、フライドポテトなどの揚げ油として使わ
れたり、口溶けが良いのでアイスクリームやチョコレートにも使われています。その他、菓子パンや菓
子類、インスタントラーメンなどにも多く使われているので、気づかないうちに「見えない油」として
日常的に食べていることがほとんど。日本人は1年間に平均4kgのパーム油を食べていると言われてい
ます。
さて、このパーム油を取るためのアブラヤシが育つのは熱帯地域のみ。そのためアブラヤシを栽培する
ために生物多様性の豊かな熱帯雨林を伐採し、そこに大規模なプランテーションを作ってアブラヤシを
栽培しています。インドネシアやマレーシアではここ20年間で約360万ヘクタールもの森林が伐採され
ました。これは、九州の全面積に匹敵する広大な森林です。
この熱帯雨林の伐採は絶滅の恐れのある野生生物や生物多様性の減少、伐採・森林火災による温室効果
ガスの大量排出、土壌・水・大気の汚染、農園における劣悪な労働環境、人権侵害など、環境面・社会
面で様々な深刻な問題を引き起こしています。
さらに健康面においても、パーム油はラットの実験で大腸がんの促進作用があることが分かっています。
日本人のガン死亡者数で見ると大腸がんは女性の1位、男性で3位と近年特に増加傾向にあります。脂
肪酸と大腸がんの関係では、オメガ6のリノール酸に大腸がんの促進作用があることが以前からわかっ
ていますが、ラット実感ではリノール酸の少ないパーム油を与えられたラットの方が大腸がんが多発し
たとの報告があります。
また、パーム油には血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを阻害する作用も確認されており、
糖尿病の発症にも深く関係しています。
さらにマウスの実験では、寿命短縮や環境ホルモン作用のあるキャノーラ油や、LDLコレステロールを
上昇させるラードを与えたマウスより、パーム油を与えたマウスの方が異常に生存率が低かったとの報
告もあります。
実は農水省のウェブサイでもパーム油に関して「トランス脂肪酸の低減」のページに「米国農務省
(USDA)は、食品事業者にとってパーム油はトランス脂肪酸の健康的な代替油脂にはならないとする
研究報告を公表しています」と書かれています。
トランス脂肪酸フリーの加工油脂は一見体に良さそうですが、原料がパーム油では逆に思いがけない健
康被害があるかもしれません。
また環境面でも、私たちが知らず知らずに食べている油によって、地球上から熱帯雨林が消失し、多く
の生き物が失われていることを知ると心が痛みます。私たち一人一人がもっと食べものの背景に目を向
けて、意識して選択することの大切さを感じますね。
加工食品に使われているパーム油を避けるのは難しいですが、まずは家庭で使う加工油脂の原料を確か
めて、もしパーム油だったら避けるということから始めると良いかと思います。
健康のために、環境を守るために、正しい油脂の選択が大切ですね。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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