『妊産婦とオメガ3』
私が代表を務める日本リポニュートリション協会の理事の先生が、妊産婦の脂質摂取が胎児に与える影
響について研究をしています。昨年からその分野の情報を教えていただいたり、研究の見学をさせてい
ただいているのですが、知れば知るほど、最近の妊婦さんの食事が心配になってきます。今日はそのこ
とについて書きますね。
胎児の脳は妊娠3週間目頃から形成されます。脳の神経細胞間のシナプスは妊娠中期(6ヶ月~7ヶ月)頃
から活発に作られ、生後1年頃までに急激に増え続けます。オメガ3のDHAは、妊娠中は胎盤を通してお
母さんから胎児に、出産後には母乳によって赤ちゃんに届けられます。
この神経細胞が沢山作られている時期にお母さんがしっかりDHAを摂ると、赤ちゃんの認知力、記憶
力、知覚力が高まることや、その子が成長した時に知能指数(IQ)が高まることが分かっています。
2歳をピークに神経細胞の数は減っていきますが、脳が形成される胎児期からお母さんがDHAを積極的
に摂ることで、その後もDHAが集まりやすい脳になると考えられています。そのため、大人になり神経
細胞が減少する時期になっても、摂取したDHAが脳に届きやすく、シナプスも活性化しやすくなりま
す。
また、オメガ3脂肪酸はお母さんにとっても重要です。
妊娠中に高血圧や蛋白尿などの症状が出る「妊娠高血圧症候群」は、重症化すると母体の肝臓や腎臓の
機能障害や神経障害、胎児の発育不全や機能不全が起こることがありますが、妊娠中は降圧剤などの薬
は使えないので、主に食事療法を行います。EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸は妊婦の高血圧を改善す
る働きがある他、妊娠糖尿病のリスクを軽減したり、妊娠中に生じやすい血栓の形成を抑制したり、マ
タニティブルーなどの気分障害を緩和したり、産後うつのリスクを下げるという報告もあります。
妊娠中や授乳中にお母さんのDHA摂取が少ないと、お母さんの脳にあるDHAを動員して赤ちゃんに与
えます。そのため、お母さんの脳からDHAが減り、記憶力や認知力が低下したり、鬱症状が出たりしま
す。そして一度このような状態になると、脳が元の状態に戻るまでに4年ほどかかることがヒトを対象と
した研究で分かっています。
このように、DHAは赤ちゃんにとってもお母さんにとっても大変重要な栄養素なのですが、近年は魚食
離れが深刻で、特に若い世代ほど魚を食べる頻度が少なくなっています。
先日も、産婦人科での母親学級で妊婦さん向けに脂質栄養講座をした際に、魚を食べる頻度を聞いたと
ころ、28人中、週に3回以上魚を食べる人は0人、週に1度が3人、残りの人はそれ以下でした。中には
半年ほど魚を食べていないという人もいて、衝撃を受けました。
食べない理由は、子どもの頃から食べる習慣がない、調理法がよく分からない、生臭くて苦手、旦那さ
んが肉食、など様々でした。
海に囲まれた島国の日本は、世界的に見ても魚をよく食べる国でしたが、2000年以降摂取量が急激に
減って、代わりに肉類が増え、2006年には魚介類の摂取量と肉類の摂取量が逆転、今では魚介類の摂取
量は肉類の1/3になっています。
なので、確かに今の20代の人は、子どもの頃から魚介類をあまり食べていない人もいるだろうし、そう
いう食環境で育てば、自分が大人になって食事を作る立場になっても、献立に魚を入れることが少なく
なるのは当然かも知れません。
ちなみに、今や世界中で認められているDHAと脳機能の関係ですが、元々は1989年にイギリス脳栄養
科学研究所のマイケル・クロフォード教授が「日本の子供の知能指数が高いのは、日本人が昔から魚を
たくさん食べていたことが理由の一つ」という研究発表をして、それ以後世界各国で研究が繰り返さ
れ、様々な効果が明らかになったのです。
それなのに、その発端となった日本の食が変わってしまいました。実際、若い世代の方の体内脂肪酸を
測ると少ない方が多いので、とても心配になります。
実は脳に関してだけでなく、和食は世界一脂質の摂り方が優れていると言われています。それは、煮
る、蒸す、茹でるという調理法が多いので調理に使う油が少ない上に、水を使うので油が高温になりに
くく、酸化しない状態で食べられるのと、魚を多く食べるのでEPA,DHAが十分摂れるためです。
幼少期の食環境は大人になっても続くことが多いですが、それを変えるのは知識です。
特に妊娠・出産は健康への意識が高まるタイミングなので、ぜひ学んでいただき、世界に誇れる日本の
食文化、旬の魚や野菜、発酵食品を取り入れた一汁三菜が日常食にしてもらえたらいいな、と思います
そしてその食環境が、次の世代にも繋がっていきますように。
インナービューーティープランナーのみなさま、ぜひ沢山の方に伝えていってください。役割は大きい
です!