【専門家ナビ】高畑宗明先生

腸の炎症を抑えてアンチインフラメイジング
腸のバリア機能は異物や病原菌を防ぐ大切な役割
腸は私たちの体の内側と外側を隔てる大切な役割を果たしています。「口の中
から体の内側じゃないの?」と思われるかもしれません。確かに、口の中にも
抗菌物質があり、胃酸でも菌が殺菌されるため、体に異物が入り込まないよう
に何重にも防御網が張られています。しかし、本当の意味で体の内と外を分け
ているのは腸です。
腸は「粘膜」と呼ばれる異物の侵入を防ぐための膜で覆われています。この粘
膜による防御は「腸管バリア」とも呼ばれ、正常に働いているときは異物や病
原菌、毒素などの侵入を防いでくれます。
一方で、そのバリアが傷ついてしまうと、炎症を引き起こして病気をもたらし
てしまうことが分かってきています。例えば、潰瘍性大腸炎やクローン病とい
った自己免疫疾患や、小麦に対してアレルギー反応を起こすセリアック病、喘
息や花粉症などのアレルギー、食物アレルギー、栄養障害、リウマチなど、多
くの病気との関連性が認められています。
こうした病気と腸の炎症との関係性とともに、加齢と腸の炎症とのつながりも
研究されるようになってきました。炎症と聞くと、それ自体がとても悪い働き
のように感じられますが、病原菌が体の中に侵入しようとした時、私たちは病
原菌や異物を「炎症」という働きで撃退しています。つまり、炎症は体にとっ
て大切な防御作用であり、その働きが過剰にならないように「抗炎症」という
働きが監視してバランスが成り立っています。
加齢による炎症反応は慢性的な腸の悪化の原因に
しかし、私たちが大人になり、生殖年齢を通じてバランスが保たれている免疫
システムは、老化に伴って次第に慢性的に軽微な炎症に傾くことが分かってき
ました。それは、人生の長い期間を通じて異物やウイルス、病原菌、化学物質
、添加物などに対抗し続けるために、絶えず炎症性の免疫反応が続いてきたか
らだと考えられています。
慢性的に生じている軽微な炎症状態を「インフラメイジング」と呼んでいます
。炎症を示すインフラメイションと、老化を示すエイジングをかけた造語です
。加齢とともに増加するがん、動脈硬化、肥満、アルツハイマーなどの疾患、
さらには老化現象そのものが慢性的な炎症によって進行するのではないかと考
えられています。つまり、最初は症状として現れていない軽微な炎症が、次第
に蓄積して病気として出てくるのです。

そして、老化とインフラメイジングとの密接な関係性が指摘される中、腸と老
化と免疫の関わりが注目されています。
加齢による炎症反応は慢性的な腸の悪化の原因に
インフラメイジングにも関わる免疫細胞は、体全体の約70%が腸に集まってい
ます。腸が内側と外側を隔てる門番のような場所のため、免疫を動員して戦っ
ているのです。
通常、炎症反応は慢性化しないように抗炎症の免疫によって抑えられてバラン
スが保たれています。しかし、加齢によって抗炎症作用がうまく機能しなくな
ることで慢性的な炎症反応が続き、インフラメイジングの状態になってしまう
のです。
近年、こうした慢性的な炎症状態に、腸に存在するTh17細胞をはじめとする炎
症性の免疫細胞が関わっていることが分かってきました。Th17細胞は普段は病
原菌への感染防御に欠かせない大切な免疫細胞なのですが、制御が効かずに慢
性化してしまうと自分の細胞までも傷つけてしまうようになります。
実は、この腸の炎症を抑える働きをしている抗炎症性の免疫細胞があります。
その細胞をTreg細胞(制御性T細胞)と呼んでいます。このTreg細胞の働きが
炎症を抑えて免疫バランスを整え、インフラメイジングに対抗して腸の健康を
支えているのです。
このTreg細胞の活性化に関わっているのが腸内細菌です。特に、腸のアンチエ
イジングに必要な成分として注目を集めているのが、ある種の腸内細菌(酪酸
合成菌)が作り出す「酪酸」です。この酪酸は、抗炎症作用を持つTreg細胞を
活性化することが分かっているのです。また、酪酸は炎症によって傷ついた腸
の細胞のエネルギーとなり、細胞や粘膜を回復させることも知られています。
さらに、腸を刺激して蠕動運動をサポートするため、加齢によって停滞しがち
な高齢者の便秘にも貢献します。酪酸合成菌は加齢だけでなく、腸や脳の病気
の際に大きく減少していることが分かっており、最近では「次世代の善玉菌」
として大注目されています。
酪酸を腸内で増やすポイントは難消化性成分
では、どのようにして酪酸合成菌を増やすことができるのでしょうか?酪酸合
成菌は極端に酸素に弱いため、体の外で生きていくことは困難です。そのため
、乳酸菌などのように外から摂取することは、まだ技術的に難しく確立されて
いません。一方、酪酸合成菌は腸内で食物繊維や難消化性デンプン(レジスタ
ントスターチ)などの「難消化性成分」をエサにして、酪酸を作り出すことが

できます。そのため、食物繊維であれば主に水溶性食物繊維(中でも発酵性の
高い芋類やこんにゃく類に含まれるグルコマンナン、ごぼうに含まれるイヌリ
ン、熟した果実などに含まれる水溶性のペクチンが有効です。
難消化性デンプンは、デンプンの中でも形が変化して人間の消化酵素で分解で
きなくなったタイプのものです。豆類や未熟のバナナなどの多いことが知られ
ています。また、米や玄米にも含まれ、特に温かいご飯よりも冷めたときの方
がその量が増えることが知られています。そのため、冷えたおにぎりなどが注
目されています。
酪酸と合成するために必要なもう一つの原料は、ビフィズス菌が作る「酢酸」
です。つまりビフィズス菌を活発に働かせて酢酸を作らせ、この酢酸を元にし
て酪酸合成菌に酪酸を作らせることも大切なのです。ビフィズス菌が酵素によ
って作り出す酢酸には、病原性大腸菌に対する感染防御作用も知られているた
め、一石二鳥の働きをしてくれます。上手に善玉菌を育てることで炎症を抑え
、腸からアンチインフラメイジングを行いましょう。

協会顧問・高畑宗明 博士

職   業 博士(農学) 岡山県岡山市出身。 岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。現在、腸内細菌や乳酸菌についての研究を続けている。 一般の方々や小学生への講演・食育セミナーを通じて、啓蒙活動を行っている。
保 有 資 格 【経歴】 株式会社バイオバンク 統括部長 博士(農学) 2009【年3月 岡山大学大学院(博士後期課程)卒業 博士(農学)取得 2013年〜14年 麻布大学共同研究員 【業績】 ・論文発表 M. Takahata et al, OM-X®, a Fermented Vegetables Extract, Facilitates Muscle Endurance Capacity in Swimming Exercise Mice. Nat Prod Commun. 12, 111-114 (2017) M. Takahata et al, Fermented vegetable and fruit extract (OM-X®) stimulates murine gastrointestinal tract cells and RAW264.7 cells in vitro and regulates liver gene expression in vivo. Integrative Medicine. 4, 1-5 (2017) M. Takahata et al, OM-X®, Fermented Vegetables Extract Suppresses Antigen-Stimulated Degranulation in Rat Basophilic Leukemia RBL-2H3 Cells and Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction in Mice. Nat Prod Common. 10, 1597-1601 (2015)
ブ ロ グ
得意ジャンル 【書籍執筆】 「腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない」 講談社+α新書 「自分史上最高の腸になる! 腸で酵素をつくる習慣」 朝日新聞出版
趣   味

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