あなたの疲労は腸内環境の乱れが原因!?
ずっと疲れが抜けない「慢性疲労症候群」って何?
普段日常的に運動をする習慣のない人が週末に急に動いたり、家族や友達との付き合いで長時間外出したりすると、翌日にぐったりしてしまうことがあります。でも、こうした疲れは病気の状態を表すわけではありません。
一方、長期間にわたって「ずっと疲れが抜けない」「何をしても疲労感を感じてしまう」という場合があります。慢性的な疲労を感じる背景には、貧血や肝機能の低下といった体の不調が伴います。しかし、病院に行って検査をしても、どうしても疲労の原因が見つからない場合には、「慢性疲労症候群」という病気にかかっていることが考えられます。
慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)とは、これまで健康に生活していた人が原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降強い疲労感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、思考力の障害、うつ症状といった精神神経症状などが長期にわたって続く病気です。この病気になると、健全な社会生活が送れなくなるなど、日常に大きな影響を与えます。通常の検査では異常が見られず、また外見上は病人に見えず元気そうであるため、なかなか理解がされにくい病気でもあります。
アメリカではおよそ400万人の罹患者数がいると考えられており、その80%は女性であるという報告もあります。持続性が高く、再燃性の疲労感であることから、数年に渡ってQOL(Quality of Life:生活の質)の低下が懸念されています。そして日本でも、近年調査が進んでおり、多くの人がこの病気を抱えている、もしくはリスクがあることが分かってきました。
こうした状況の中、疲労と精神状態、免疫、そして腸内環境との関係性が明らかになってきています。
疲労と脳と睡眠には密接な関わりがあります!
慢性疲労症候群であると診断される前に、病院でよく指摘される病名があります。それは「IBS(過敏性腸症候群)」です。IBSとは、腹痛や腹部の不快感を伴う下痢や便秘などの便通異常が慢性的に繰り返される病気です。IBSはストレスと大きな関係があると考えられており、精神状態の悪化が腸の機能に悪い影響を与えます。
実は、慢性疲労症候群もIBSと同様に腸内環境の悪化が関係していることが分かってきています。食欲の減衰や腹部の痛み、下痢、吐き気、さらには胃散の逆流といった症状もあります。このように、慢性疲労症候群の症状が大きくなる原因の1つが、心の状態にある可能性があるのです。
心の状態は体の免疫系や内分泌系(ホルモンの調整など)に影響を与えます。そのため、生活や仕事でストレスを抱えて気分が落ち込んでしまったときには、体はとても疲れやすくなります。こうしたストレス状態の時、脳内ではケガをした時と同じように「炎症」が起こっています。
ストレスを感じた脳内では、血流が低下し、神経伝達物質の運搬が少なくなるため代謝が落ちている状態になります。痛みを和らげる機能も働きが鈍くなり、全身の筋肉痛や関節痛といった症状が引き起こされます。実際に、慢性疲労症候群の患者では、脳内の海馬や扁桃体、視床や中脳などで炎症が増え、健康な人と比べると大きな差があることが報告されています。
また、夜遅くまで働いていると、脳の炎症が強くなってダメージが蓄積してしまいます。通常は睡眠をきちんと取ることで、日中に高ぶった交感神経系を休めることができますが、働き過ぎて体のリズムが崩れてしまうとうまく眠ることができなくなり、睡眠が浅くなります。こうした状況が続くと、自分の力だけでは回復できない慢性的な疲労状態になってしまいます。そのため、脳から始まる疲労状態をケアするためにも、睡眠と休息はとても大切なのです。
腸内環境と免疫の悪化も慢性疲労の大きな原因!
心の状態と並んで、慢性疲労症候群の原因として挙げられるのが、「腸内環境と免疫の悪化」です。実は、慢性疲労症候群は、風邪などのウイルス感染をきっかけに発症することも多いのです。
腸は消化された食べ物を体の中に吸収する大切な臓器です。そして、もう1つの大きな役割が有害なものを体の中に取り込まないように防御することです。腸内には約40兆個の腸内細菌が共生していますが、通常は共生している微生物を排除することはありません。外から入り込んだウイルスや悪い菌に対して、免疫という機能を使って戦い、体を守っています。
しかし、慢性疲労症候群の場合、体を守るために欠かせない腸の組織(粘膜)が傷ついています。この粘膜のおかげで有害物質や有害菌の侵入を防いでいるのですが、傷ついた粘膜では体の中に入り込んでしまいます。ある研究によると、ウイルスの1種であるレトロウイルスが血液中に存在する割合は、健康な人では4%くらいであるのに対し、慢性疲労症候群の場合は67%であったとも報告されています。
さらに、免疫機能が乱れてしまうことで、腸内の炎症が起こってしまいます。炎症を促す物質(炎症性サイトカイン)が多く作られることで、自分の腸の粘膜を傷付けてしまい、有害菌の侵入を増加させてしまうのです。
疲労の蓄積を調べる方法として、尿中の8-OHdGという物質を調べることがあります。8-OHdG(8-OH-deoxy guanosine)とは、体の酸化ストレス状態を表す指標として知られており、体が酸化状態になると多く尿中に排出されます。このことからも分かるように、酸化ストレスも慢性疲労の一因と考えられています。
さらに腸内細菌の観点からも、慢性疲労症候群との関係が研究されています。例えば、善玉菌として知られているビフィズス菌は、慢性疲労症候群では減少し、通常はあまり存在しない、酸素を好む種類の微生物が腸内に増加することが報告されています。
このように、病院でははっきりとした原因が分からないとされる慢性疲労症候群も、ケアすべき点を絞っていくことができます。まずは、ストレスを軽減するために仕事の時間を見直すこと。そして、回復のための睡眠をきちんと確保することが大切です。
さらに、慢性疲労症候群にならないためにも、腸内環境をケアして日常の疲労を軽減させることが重要です。最近では、生きた乳酸菌(プロバイオティクス)を摂取することで、酸化ストレスが減少し、腸の炎症が収まったという研究も発表されています。腸内環境をバランスよく保つためにも、発酵食品や食物繊維などを上手に取り入れて、健康的な毎日を送りましょう。