【専門家ナビ】高畑宗明先生

抗酸化サプリメントは本当に効果的!?
活性酸素と戦うために気をつけるべき食習慣
過剰な活性酸素は生活習慣病などの疾病リスクに
私たちの体の中では、常に活性酸素が発生しています。活性酸素とは、運動したり食
べ物を体内でエネルギーに変えたりする過程で、自然に発生する不安定な酸素です。
常に活性酸素が体内で作られているにも関わらず、私たちの体がきちんと働いている
のは、作られた活性酸素を除去する機能が元々備わっているからです。活性酸素が作
られることを予防したり、生じたダメージを修復したり再生したりする働きです。
しかし、現代社会では大気汚染やタバコの煙、紫外線などの様々な要因で必要以上に
活性酸素が発生することがわかっています。過剰な活性酸素は、がん、心血管疾患、
糖尿病、アルツハイマー病、白内障など多くの病気の一因であると考えられています

一方で、活性酸素には良い働きもあります。例えば白血球から作られるタイプは、免
疫や感染防御の大切な役割を担っています。また、細胞同士の情報伝達や、細胞の鮮
度を保つ働き、さらに排卵や受精にも関わっています。そのため、「活性酸素を必要
以上に作らせない」ことが正しい理解になります。
一般的に、野菜や果物の多い食事には多くの抗酸化物質が含まれていて、健康に良い
ことが知られています。野菜や果物をより多く摂る人は、病気のリスクを低下させる
ことが研究からもわかっています。こうした食品に含まれる代表的な抗酸化物質は、
ビタミンC、E、βカロテン、リコピン、ルテイン、ゼアキサンチン、セレンなどです
。これらのデータを元にサプリメントとして多くの抗酸化物質が販売されていますが
、本当にサプリメントでも同じような抗酸化効果が得られるのでしょうか?
抗酸化サプリメントには健康効果は証明されていません
この疑問に答える研究や調査がいくつも行われています。それらの研究では、抗酸化
サプリメントは病気の予防には役立たないことがわかってきています。例えば、循環
器疾患におけるビタミンEやビタミンCの効果を調査する約4万人の大規模な健康調査
では、死亡総数や心臓疾患による死亡率ともにサプリメントの影響は見られていませ
ん。同じくビタミンEが脳卒中、がん、白内障などのリスクを減らすことはないこと
もわかっています。さらには、セレンとビタミンEのがん予防効果試験は、3万人以上
の50歳以上の男性を対象とした調査において、セレンとビタミンEの単独もしくは併
用による摂取でも前立腺がんを予防することはないことも報告されています。他にも
似たような報告は数多くあり、ほとんどの抗酸化サプリメントの臨床試験において、
健康効果は証明されていないのです。
この理由としては、いくつか原因が考えられています。まず、野菜や果物など抗酸化
物質が豊富な食品による健康効果は、抗酸化物質よりもその食品に含まれる他の物質
や食事の組み合わせによってもたらされる可能性があります。また、サプリメントに
含まれる抗酸化物質が、食品中の成分の種類や形態と異なることも考えられます。こ

のように、抗酸化を考える場合には単にサプリメントを摂取するのではなく、食品と
して体に取り入れる方が病気の予防には役立つ可能性が大きいのです。
体内で作られるグルタチオンは腸の抗酸化の強い味方です
抗酸化と聞くと、外から摂取する物質ばかりを考えがちですが、体内で作られている
抗酸化物質の方が遥かに重要です。その代表がグルタチオンです。グルタチオンとは
、私たちが食べた食事に含まれるタンパク質を原料にして体内で合成されます。タン
パク質は消化酵素でアミノ酸にまで分解され、そのアミノ酸のうちグルタミン酸、シ
ステイン、グリシンの3つがつながってできています。グルタチオンは体内の細胞に広
く存在し、体中の活性酸素の除去に役立っています。さらに、体内に取り込まれたビ
タミンCやビタミンEを再活性化(還元)するためにも欠かせません。また、赤血球の
膜の安定化や、アミノ酸の運搬にも関わっています。グルタチオンの減少により、様
々な生活習慣病リスクが上昇することが知られています。
グルタチオンは、実は腸の中でも大切な役割を担っています。腸管表面を覆っている
上皮細胞によって産生されるグルタチオンは、解毒の役割を果たしています。ラット
の研究では、腸内のグルタチオン量が減少することで活性酸素や毒性を示す成分が蓄
積し、腸のバリア機能が破壊されてしまうことが示されています。また、タンパク質
摂取量を制限した場合、腸の上皮細胞で作られている絨毛が萎縮し、腸内のグルタチ
オン濃度が減少することも発表されています。腸内の抗酸化作用、腸のバリア機能の
ためにも、グルタチオンの材料になるタンパク質はきちんと摂取することが大切です

小腸での菌の増え過ぎが抗酸化に悪影響を及ぼす!?
さらに、腸内細菌がグルタチオンとアミノ酸代謝を調節していることも発表されてい
ます。研究によると小腸の微生物がグルタチオンの材料の1つであるグリシンを消費す
ることが発見されました。グリシンはグルタチオンの合成に必要な3つのアミノ酸のう
ちの一つであり、菌が消費することでグルタチオン産生能が低下することも予測され
ています。またマウスの門脈中のアミノ酸のレベルを測定し、さらに肝臓や結腸組織
においても低いグリシンが観察されました。
これは、腸内細菌が小腸だけでなく肝臓や結腸においてもグルタチオン代謝を調節す
ることを示しています。以前の研究から、グリシンおよび他のアミノ酸の血漿レベル
の不均衡は、肥満、2型糖尿病および非アルコール性脂肪肝疾患に関連することも報告
されています。グリシンの血漿レベルは健康な被験者と比較して上記の疾患を持つ全
ての被験者で減少しています。
小腸には通常、それほど多くの微生物は住んでいませんが、最近は小腸で異常に微生
物が増殖するSIBO(シーボ:小腸内細菌増殖症)という病気が増加しています。この
原因はまだ明らかではありませんが、体に良いからといって乳酸菌などのプロバイオ
ティクスを過剰に摂取し過ぎなのではないかとも考えられています。外から摂取した
菌が小腸で増え過ぎてグリシンを食べてしまい、グルタチオン合成が低下して抗酸化
や解毒に悪影響が及んでいるのかもしれません。

「抗酸化」という言葉に引っ張られて、大量の抗酸化サプリメントを摂取するのでは
なく、食事面から見直して食材本来の機能性によって体を活性酸素から守っていくよ
うにしましょう。
(参考文献)
J Nutr 140, 317-324 (2010)
Arch Ophthalmol 128, 1397-1405 (2010)
Free Radic Biol Med 51, 1068-1084 (2011)
Surgery 136, 557-566 (2004)
World J Gastroenterol 13, 2833-2840 (2007)
Mol Syst Biol 11, 834 (2015)

協会顧問・高畑宗明 博士

職   業 博士(農学) 岡山県岡山市出身。 岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。現在、腸内細菌や乳酸菌についての研究を続けている。 一般の方々や小学生への講演・食育セミナーを通じて、啓蒙活動を行っている。
保 有 資 格 【経歴】 株式会社バイオバンク 統括部長 博士(農学) 2009【年3月 岡山大学大学院(博士後期課程)卒業 博士(農学)取得 2013年〜14年 麻布大学共同研究員 【業績】 ・論文発表 M. Takahata et al, OM-X®, a Fermented Vegetables Extract, Facilitates Muscle Endurance Capacity in Swimming Exercise Mice. Nat Prod Commun. 12, 111-114 (2017) M. Takahata et al, Fermented vegetable and fruit extract (OM-X®) stimulates murine gastrointestinal tract cells and RAW264.7 cells in vitro and regulates liver gene expression in vivo. Integrative Medicine. 4, 1-5 (2017) M. Takahata et al, OM-X®, Fermented Vegetables Extract Suppresses Antigen-Stimulated Degranulation in Rat Basophilic Leukemia RBL-2H3 Cells and Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction in Mice. Nat Prod Common. 10, 1597-1601 (2015)
ブ ロ グ
得意ジャンル 【書籍執筆】 「腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない」 講談社+α新書 「自分史上最高の腸になる! 腸で酵素をつくる習慣」 朝日新聞出版
趣   味

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