【専門家コラム】地曳直子先生

先日、私が代表理事を務める日本リポニュートリション協会で、東京農大応用生物学部食品安全学科の
高橋信之教授をお招きして勉強会をを開催しました。
たくさんの方に知っていただきたい内容なので、シェアさせていただきます。
高橋先生のご専門は「食品成分によるメタボリックシンドロームの予防・改善」で、医学博士でありな
がら、薬でなく食品での病気予防の方法を日々研究されています。
日本では、医学は医学部、栄養学は農学部と分かれているので、実は医学博士で栄養系の研究をしてい
る研究者はそれほど多くありません。
この縦割りの教育制度自体が、日本の医療界で栄養療法が浸透しない大きな原因です。
その中で、医学の道を歩んでいた方が医療の限界を知り、食事や栄養の重要性に気づいて研究をしてく
ださっているのは、とてもありがたい事だと感じます。
さて、今回高橋先生には『糖・脂質代謝と炎症 ~インスリン抵抗性・食後高脂血症のメカニズムの解
明と食品成分による改善』というテーマで、以下の3つに分けてお話しいただきました。
①なぜ肥満すると糖尿病になる?
~脂肪細胞、マクロファージ、インスリン抵抗性~
②健康診断OKでも動脈硬化になる?
~消化管での脂質吸収、高脂肪食による食後高脂血症の悪化~
③脂質燃焼を回復させるには?
~抗炎症作用を持つ食品成分、PPARα~
全てをここで書き起こすのは難しいのですが、ポイントは、
・糖と脂質の代謝は別々に捉えられがちだが、実は非常に関連が深い。
・糖の代謝異常であるインスリン抵抗性と、脂質の代謝異常である食後高脂血症は、どちらも「炎症」
が関係している。
ということです。
ご存知の方も多いと思いますが、近年ほとんどの疾患の根底に「炎症」があると言われています。
そしてこれは、医学・生物学の統一理論とも言われているとのことでした。
エネルギーと重さが関係していることを示したアインシュタインの相対性理論が物理学の統一理論と言
われているのと同じく、今まで全く別ものだと考えられていた病気が、実は炎症という言葉で一括りに
できることが分かってきたということだそうです。
ではそもそも炎症とは、体の中で何が起こっている状態なのでしょうか?
免疫細胞であるマクロファージは細菌表面のリポ多糖(LPS)を認識するセンサー(TLR-4)を持っています。
マクロファージが体の中でパトロールをしながら、TLR-4で細菌のLPSを認識すると、TNFαやMCP-1
などの炎症性サイトカインを血中に放出します。(このようなマクロファージを活性化マクロファージ
といいます)
活性化マクロファージは更にMCP-1という物質を放出し、他のマクロファージを呼び寄せ、集まったマ
クロファージは活性化マクロファージが放出したTNFαによって活性化して、細菌を退治します。
この状態が炎症です。
簡単に説明すると、体の中をパトロールしている免疫細胞であるマクロファージが、敵を見つけると警
報を鳴らして仲間のマクロファージを呼び寄せて、みんなで集まって敵を攻撃している状態。
これは生命を維持するための重要な仕組みなのですが、マクロファージが誤作動してしまうと、本当は
敵でないのに攻撃してしまい、それによる炎症が様々な病気を引き起こすことになるのです。
その一つが、内臓脂肪型肥満の時に起こるマクロファージの誤作動。
肥満して内臓脂肪が増えると、一つ一つの内臓脂肪細胞が肥大化します。肥大化脂肪細胞は限界まで大
きくなると満腹シグナルとして炎症性サイトカインであるTNFαを放出し、「もうこれ以上糖を取り込
むな!」という指示を出します。すると糖を細胞に取り込めなくなります。(この状態をインスリン抵
抗性とよびます。)糖が細胞に入れないので血液中の糖が増えて高血糖となます。
また同時にTNF-αは「溜め込んだ脂肪を分解しろ!」という命令も出すため、肥大化脂肪細胞の中に
蓄えられたトリグリセリド が分解されて、脂肪酸が血液中に放出されます。
放出された脂肪酸の中で飽和脂肪酸は細菌表面のリポ多糖(LPS)と構造が似ているため、なんとマクロ
ファージが細菌と勘違いしてしまい、前述のような一連の流れで仲間のマクロファージを脂肪組織に呼
び寄せて炎症を起こすのです。
更に脂肪組織の炎症はそこだけに留まらず、TNF-αを血液中に放出して、肝臓や筋肉などの他の組織
にもインスリン抵抗性を起こさせます。これが続くと糖尿病になります。
これが、肥満(特に内臓脂肪型肥満)すると脂肪組織で炎症が起こり、そこから全身性インスリン抵抗性、
糖尿病に発展するメカニズムであり、と言うことは、炎症を抑えるとインスリン抵抗性が改善し、糖尿
病への発展も抑えられると言うことです。
実際、抗炎症作用のある柑橘類のオーラプテンや、イカやタコのタウリン、体内で抗炎症物質に変わる
DHAなどでインスリン抵抗性が改善しているデータも見せていただきました。
もちろん一番大事なのは内臓脂肪型肥満にならないような生活をすることですが、もし身近で糖尿病の
方がいたら、糖質制限だけでなく抗炎症のアプローチもすると良いと思います。
脂質は炎症・抗炎症に直結する栄養素です。現代人は炎症を起こすオメガ6系脂肪酸の過剰摂取も問題
になっているので、糖の代謝を正常にするためにも、まずはオメガ3とオメガ6のバランスを取ること
が重要です。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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