痩せすぎも肥満も要注意! 脂肪について正しい理解を
脂肪も体に欠かせない栄養成分
体のエネルギー源として働きます
脂肪と聞くと、おそらく多くの方は「太る」「肥満」といったイメージを持つのではないかと思います。脂肪は嫌われ者の代表格ですが、脂肪の本当の役割についてご存知の方はあまり多くないのではないでしょうか。最近は、太ることを過剰に意識しすぎることで、逆に痩せすぎ体型が若い人たちに増えています。脂肪の働きをきちんと知り、脂肪を健康のために上手に活かしましょう。
私たちが食事から摂取しなくてはならない三大栄養素は、たんぱく質、糖質、そして脂質(脂肪)です。脂肪は摂りすぎると肥満の原因にもなりますが、生きていく上でなくてはならない栄養素でもあります。私たちが食事から摂取する脂肪は、体の中で脂肪細胞という入れ物に蓄積されます。脂肪細胞は全身にある細胞の一種で、食事から摂取した脂肪を蓄える役割があります。その数は思春期にかけてぐっと増え、20歳前後の成人では約400億個になるともいわれています。
このように全身に広く分布している脂肪細胞は、食事の後に血液中に流れている中性脂肪や糖を取り込み、エネルギー源として蓄えています。脂肪細胞はエネルギーが必要になったときに細胞内に溜めている脂肪を分解し、全身を維持するための材料を届けています。
脂肪を付けて冷え性対策!?
体温維持や内臓保護に欠かせません
脂肪細胞は、単にエネルギーを貯める役割を果たしているだけではありません。脂肪細胞には皮下脂肪と内臓脂肪があります。皮下脂肪とは体の中の皮膚の下にあり、一方の内臓脂肪は消化管の周辺にあります。
実は、皮下脂肪は体温維持のための断熱作用があります。体温より外気温が低い場合、脂肪があることで体温が保たれます。さらに、体を衝撃から保護する緩衝材の役割も果たしています。また、女性にとってはメリハリに富んだボディラインを作るためにも必要です。なお、脂肪は内臓の位置をきちんと保つ機能を持っています。痩せている人に胃下垂が多いのは、脂肪が足りないため内臓の位置が下がっているのです。
ただし、皮下脂肪に収まりきらない脂肪は内臓脂肪として蓄積してしまいます。男性はホルモンの関係で内臓脂肪が貯まりやすいため、メタボリスクが高くなるので要注意です。
脂肪と女性ホルモンの意外な関係
痩せすぎると生理不順や不定愁訴に
一般的な脂肪の知識は先ほど挙げた通りですが、ここ最近の研究によって、脂肪細胞は健康に欠かせない様々な働きをしていることが分かってきました。
まず、脂肪細胞と女性ホルモンとの関連性です。実は脂肪細胞は女性ホルモンであるエストロゲンの前駆体(エストロゲンになる前の物質)をエストロゲンに変換してくれます。脂肪を取り込んでいない脂肪細胞は、この変換機能を果たすことができません。そのため、女性が痩せすぎると女性ホルモンの分泌が減り、生理不順などのさまざまな問題が引き起こされます。女性アスリートが激しい練習をすると体脂肪が減少し、生理が止まってしまうのはこのためです。また、最近では思春期や働き盛りの女性の痩せすぎ体型が問題になっています。
女子高校生や女子大学生の痩せについての文献はさまざまありますが、どの文献においても「痩せ願望」がある女性は約90%にも昇ります。しかし、実際には痩せ願望がある女性の中に痩せすぎ体型の人が多く含まれ、ホルモンバランスが乱れることによる生理不順や冷え、疲れなど、さまざまな不定愁訴に悩まされる現状があります。これも、過度なダイエットによる脂肪の不足が大きな要因であると指摘されています。
また、もう1つの脂肪の大きな特徴は、アディポサイトカインという物質を分泌することです。脂肪は炎症を進めて体に害を及ぼすイメージがありますが、実は普段分泌されているアディポサイトカインには炎症を抑える作用があり、糖尿量や動脈硬化を抑制することがわかってきています。さらに、食欲調整や熱産生を促すホルモンも分泌しています。このように、脂肪は私たちの体にとって、とても大切な働きをしてくれているのです。
もちろん肥満には要注意!
適切なBMIや体脂肪率を知ろう
しかし、脂肪が蓄積しすぎることで肥満になると、脂肪細胞が必要以上に大きくなってしまい、良い働きをするはずの脂肪細胞が不良化してしまいます。これによって悪玉の物質が増えてきます。先ほど良い働きをするとして紹介したアディポサイトカインも、実は善玉と悪玉の2種類があります。太ってしまい脂肪細胞が大きくなりすぎると、善玉が減って悪玉が増えます。その結果、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病を引き起こすメタボリックシンドロームという状態になってしまうのです。
また、血圧を上げる作用のあるアンジオテンシンⅡという物質も過剰に作られてしまいます。普段は悪玉の物質ではないのですが、肥満によって過剰に分泌されると高血圧症の原因となります。こうした悪玉の物質は、皮下脂肪よりも特に内臓脂肪で影響を及ぼします。内臓脂肪から分泌された物質は肝臓に入り込みやすく、肝機能を悪化させてしまうのです。つまり、脂肪は少なすぎても悪い影響があり、摂りすぎても体に害を及ぼしてしまうのです。
自分の体の脂肪の状態を判断するには、適切なBMIと体脂肪率を知ることが大切です。痩せすぎ、肥満のどちらのリスクも回避するために、脂肪と上手に付き合いましょう。
<まとめ>
痩せすぎリスク
・女性ホルモンの低下
脂肪不足により女性ホルモン産生量が減少する。そのため、無月経や不妊リスクが上昇する。
・低出生体重児出産のリスク増
母体の痩せすぎにより、定出生体重時(2,500g未満)出産リスクが約2倍になる。
・骨粗鬆症、貧血など
カルシウム不足による骨粗鬆症リスク上昇や、鉄不足によるだるさ、疲れやすさなどが起こりやすくなる。
→20代女性では5人に1人が痩せという結果に。痩せるためだけの過剰なダイエットには要注意!
肥満リスク
・心臓への負担増加
体が大きくなることで毛細血管が伸びてしまい、血液を送り出す心臓に負担がかかってしまう。
・膝、腰への負担増加
歩く時には膝に体重の2〜3倍の荷重がかかる。肥満によって変形性膝関節症などにかかりやすくなる。
・生活習慣病リスク増加
高血圧、高血糖、高脂血症などの生活習慣病のリスクが増加する。また、婦人科の疾患も増えやすくなる。
→肥満の状態になると様々な疾患リスクが。運動や食事療法を取り入れて適正体重に。