【専門家コラム】地曳直子先生

 『ポストバイオニクス』

近年、腸内細菌と脂質のかかわりに関する研究が大変進んできています。脂質は糖質やタンパク質と比
べると未解明な部分の多い栄養素でした。しかし近年は日進月歩の勢いで解明されてきています。それ
は、解析機器や技術の進歩によるもので、中でもメタボローム解析という、生体内や細胞内にある低分
子の代謝物を可視化する技術の進展が大きいです。
メタボローム解析により、今まで見えなかった脂質の代謝物が網羅的に見えるようになると、次はその
代謝物が体内でどのように作られたかを解明していきます。体内で一つの物質が別の物質に変わる時
は、必ず酵素が必要になりますが、脂肪酸のメタボローム解析をしたところ、ある種の脂肪酸の代謝物
に私たち人間が持っていない酵素で代謝されたと思われるものが見つかりました。そして研究を進めて
いくと、腸内細菌の酵素によって代謝していることが分かったのです。
それまで、食べた脂肪酸は私たちの酵素によってのみ代謝されると考えられていたのですが、実はそれ
だけではなく、脂肪酸の代謝には腸内細菌が関わる場合もあるのです。
例えば、リノール酸を食べると、大部分は私たちの持っている酵素によってγ-リノレン酸やアラキドン
酸に変換されます。この代謝はヒトの酵素でしか出来ないのですが、一部は腸内細菌の持つ酵素によっ
てHYAという脂質に変換されます。アラキドン酸は炎症を惹起したり血栓を作るなど様々な生理機能を
持つことが知られていますが、HYAは腸管の抗炎症作用や血糖値の上昇抑制、ピロリ菌の増殖抑制など
があり、新規機能性脂質として注目されています。
また、EPAは体内で17,18EpETEという強力な抗アレルギー作用のある脂質に変換されますが、この時
の酵素はヒトにも腸内細菌にもあります。ですので、例えば生まれつきその酵素の活性が弱い人でも、
もし腸内にEPAを代謝させる酵素を持っている微生物がいれば、17,18EpETEを作れるということで
す。
では、どちらもない人はどうしたら良いのでしょうか?その答えが「ポストバイオティクス」という考
え方です。
よく聞く「プロバイオティクス」は、有用な微生物を外から補うこと、「プレバイオティクス」は腸内
細菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖などを取り入れること、「シンバイオティクス」はその両方。で
は、「ポストバイオティクス」は何かというと、あらかじめ体外で微生物に代謝させて、その代謝物を
取り入れることです。それにより、必要な腸内細菌がいない人でも代謝物自体を取り入れることで機能
性が期待できるというものです。
ポストバイオティクスで今一番進んでいるのが、先に書いたHYAです。これは製薬会社がリノール酸を
ある種の乳酸菌で代謝させてHYAを作るのに成功しています。
また、EPAから作られる17,18EpETEも、枯草菌(納豆菌)の一種が代謝させることが分かっており、現在
17,18EpETE入り納豆の研究開発が進んでいます。
今後恐らく、ポストバイオティクスという言葉も技術も広まっていくと思いますが、本来は自分自身の
腸内で行われるべきもの。
脂質を介して健康を維持するためにも、腸を整え、微生物たちを元気にしておくことが重要ですね。

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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