お酒をたくさん飲んでも、家に帰れるのはなぜ?
お酒を飲み過ぎて記憶をなくした、という話、よく聞きますよね。でもそんな人でも、気がつくと、ちゃんと家に帰ってベッドで寝ていたという話もよく聞きます。それはなぜでしょう?
記憶をなくすことを、英語で「ブラックアウト」と言います。そして記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
すべての情報は、まず短期記憶として保存されます。その後、必要な情報だけが取捨選択されて長期記憶になります。いわゆる「覚える」とは、長期記憶に情報が蓄積された状態です。
そして情報の取捨選択を行っているのが、脳の側頭葉の内側にある「海馬」です。海馬に入ってきた短期記憶は、たとえば何度も同じような行動をすることで神経細胞同士のつながりが強くなり、長期的に記憶ができるようになります。これを長期増強(LTP)と言います。
ところがアルコールを飲むと、ステロイドが神経細胞で作られ、長期増強が抑制されます。その結果、新しい記憶である飲み会での出来事を覚えられず、「ブラックアウト」となるのです。これは、2011年にワシントン大学医学部の和泉幸俊教授らが発表した研究であきらかになりました。(J Neurosci. 2011 July 6; 31(27): 9905-9909.)
しかし、もともと長期記憶で覚えている家の場所や自分の名前は忘れないので、ちゃんと帰ることができるというわけです。
それでは、お酒で記憶をなくさないためにはどのようにすればよいでしょうか?
予防策は、やはり「飲み過ぎないこと」につきます。
「ブラックアウト」は、血液中のアルコール濃度が0.3%(ビール中瓶で4~6本、日本酒で4~6合が目安)を超えると起こりやすくなります。しかしブラックアウトを起こしそうになっている頃には、本人は自制心がなくなっているので、飲むのをやめられません。
だから飲む前に準備をしておきましょう。お酒とともに「水」を注文しておくのです。お酒と一緒に水を飲むことで、アルコール血中濃度を下げることができます。お店ではなかなか注文できないと思いますが、もし持っていくことができるなら、経口保水液もおすすめです。
また、ブラックアウトを起こしかけている人は、千鳥足になり、同じことを何度も繰り返すようになります。もしお酒の席でそんな人を見かけたら、水を飲ませてあげてください。
注意しておきたいのは、ブラックアウトが出現するほどの飲酒量を続けると、脳血管の動脈硬化を引き起こしたり、ビタミンB1不足による「ウェルニッケ脳症」という病気になりやすくなるということ。記憶をなくすどころの話ではありません。
飲んで楽しい気分になるのは構いませんが、何事もほどほどに。もちろん他人に無理やり飲ませたりするのも厳禁ですよ。記憶被害どころか、健康被害を与えることにもなりかねません。