コラム vol.15(2018.7) 『日本脂質栄養学会にて』
先日、年に一度2日間に渡り開催される日本脂質栄養学会の学術大会に参加してきました。
精神疾患における脂質の役割、糖代謝と脂質、オメガ3の腎臓保護作用、アルコール性肝炎とEPA,
DHA 、小児の脂質栄養、EPAの筋損傷回復作用など、多岐に渡る研究発表がありましたが、中でも特
に女性に知ってもらいたいと思ったのが、周産期と脂質栄養に関してです。
以前から、胎児期(特に後期)から乳児期には、脳や神経系の形成のためにオメガ3のDHAが必要だとい
うことは知られていました。その時期にお母さんのDHA摂取量が足りないと、お母さんは自分の脳を犠
牲にして、脳にあるDHAを、胎児期には胎盤を通して、乳児期は母乳を通して、赤ちゃんに与えます。
なんと、一度の出産でお母さんの脳の体積は4~6%が減少するそうです。これはその後徐々に戻るそう
ですが、元々脳の中でもDHAの割合が多い灰白質は、1%減少したまま2年は戻らないそうで、これが出
産後の認知機能低下や物忘れ、産後うつにも関わっているとのこと。
また、他の研究でも、魚介類の消費量が少ない国ほど産後うつになるリスクが高まるという報告があり
ます。さらに、胎児期のω3系脂肪酸不足は、その後の神経発達やIQにも影響します。
しかしこれらは、妊婦さんが十分なDHAを摂ることで防げることも分かっています。
日本ではここ20年、どの年代でも魚の摂取量が減少しており、特に若い人の魚摂取に関しては深刻です。
日本人のお母さんの母乳は世界で最もDHAが多かったのですが、近年食生活の変化により母乳の脂肪酸
組成が崩れ、それが乳幼児のアレルギーの増加にも影響していると考えられています。
妊婦さんの魚の摂取は水銀汚染の問題もあるので注意が必要ですが、水銀を避けるために魚を摂取しな
いというのは、胎児にもお母さんにとってもマイナスです。WHOも、水銀のリスクよりもDHAを摂ら
ない方がリスクが大きいとしています。
とは言え、やはり水銀や放射能汚染は胎児に大きな影響を与えるので、魚を選ぶ時は出来るだけ食物連
鎖のはじめの方の小型魚で、汚染度の低い海域のものを選ぶと良いと思います。
調理法は、通常オメガ3系の脂質を効率よく摂れるのは生食ですが、妊婦さんの場合は煮るかむすなど
の調理法が良いです。鮭の粕汁やつみれ汁など、汁物ならば高温にならないので酸化もしにくく、汁に
溶け出した脂質も摂れるのでお勧めです。
周産期の脂質栄養は大変重要なので、これからお子さんを産む方、また、周りにそのような方がいたら
ぜひ教えてあげていただきたいです。