<歯周病で腸内も悪化!? お口から始める健康管理>
:歯周病は成人の80%が感染する 歯を失いかねない疾患です:
歯周病とは、歯を支えている周りの骨が溶けていく病気です。口腔内の細菌とそれらが作り出したものが含まれる歯垢(プラーク)が原因となります。歯垢は歯と歯肉の間にある歯周ポケットに入り込んで炎症を起こし、やがては歯を支える歯槽骨を溶かしてしまいます。
歯周病は、歯を失う最も大きな原因となります。厚生労働省の調査によると、30歳を過ぎた成人の80%は歯周病にかかっていることが分かっています。また、最近では小学生や中学生でも多くの人が罹患していることが判明しています。さらに、日本人だけではなく世界の様々な国でも数多くの人が罹患しており、ギネスブックに「人類史上最も感染者数の多い感染症」として掲載されているほどです。
「口が臭うな」と思ったら要注意 口臭も歯周病が原因
歯周病と聞くと「歯を失う病気」というイメージが最も強いのですが、口臭の原因としても知られています。口臭は、胃腸や気管支などの病気で臭いがする場合もありますが、実は9割以上は口の中にいる歯周病菌と呼ばれる細菌が原因です。細菌は、唾液や食べカスに含まれるタンパク質を分解し、口臭の原因となる硫化水素を作り出します。また、アルコールの摂取によって歯周病の罹患率が高くなり、口臭も強くなるといった研究データもあります。そして、近年の研究によると歯周病は全身のさまざまな病気と深く関わっていることが明らかになってきました。
歯周病は全身の健康にも影響大 様々な疾患のリスクを高めます
歯周病が悪化すると、病原菌が起こす炎症によって歯周ポケットという溝が作られます。この歯周ポケットに入り込んだ病原菌や、病原菌が作り出す炎症性の物質は、歯肉の血管を通じて血液に流れ込んでしまいます。実は、この病原菌や炎症物質が血流に乗って全身に運ばれ、組織や臓器に悪い影響を与えていると考えられています。
研究結果では、心疾患や糖尿病、骨粗しょう症、肺炎、早産・低体重児出産にいたるまで、歯周病にかかった人ではリスクが上昇することが報告されています。肝炎を患った患者が歯周病を治療することで症状の改善がみられた例もあります。
お口の環境が腸にも関係!? 歯周病菌は腸内環境を乱します
口の中にある歯垢(プラーク)には、300〜500種類の細菌が生息しています。こうした細菌は普段は口腔内の環境を維持するために重要な働きをしているため、全てが病原菌となるわけではありません。しかし、いつくかの細菌は虫歯や歯周病の原因となることが指摘されています。なかでもポルフィロモナス・ジンジバリス菌が作り出す様々な物質は、歯根膜や周辺の細胞などを直接破壊するため、非常に悪性の強い細菌と考えられています。そして、2015年にはこのジンジバリス菌と腸内環境の悪化の関連性が発表されました。ジンジバリス菌をマウスに与えると、マウスの腸内細菌のバランスが悪化し、腸に炎症が発生して血液中の毒素量が増加したのです。さらに、肝臓にも悪影響を与えました。このように、腸内環境の悪化と歯周病にも関連性があると考えられ始めています。つまり、腸の健康を考える上でも、口の中の健康を維持することはとても大切なことなのです。
大腸がんの発症にも歯周病菌が関係しています��2018年の最新の論文では、大腸がんの発症にも歯周病菌が関係していることが発表されています。横浜市立大学の研究によると、4割以上の大腸がん患者の患部組織とその患者の唾液から、フソバクテリウム・ヌクレアタムという菌が共通で存在していることがわかったそうです。この菌は健常者でも多くの人が口腔内に保有している常在菌の一種で、もともと歯周病の悪化に関与することが分かっていました。今回の研究で大腸がんの悪化にも関与が強く疑われるようになったことで、より一層の口腔ケアの重要性がさけばれています。
歯周病対策をしっかり!生涯に渡って健康な歯を大切に
それでは、歯周病の予防と対策には何が有効なのでしょうか? まず、予防と治療に欠かせないのが歯の表面に付着したプラークを取り除くセルフケアです。歯科医師や歯科衛生士に適切なブラッシング方法を指導してもらうのがよいでしょう。そのほかにも、いくつかのポイントを下の表にまとめておりますので参考にしてみてください。歯周病の際に発生する炎症を抑える上で、オメガ3系脂肪酸が注目されています。アメリカのハーバード大学の研究チームによって「オメガ3系脂肪酸(DHA・EPA)が歯周炎の発症率を低減させる」という報告がなされました。約9000名の成人を対象にした調査の結果、DHAの摂取量が最も多い人は、最も少ない人と比べ歯周炎の発症率が22%低かったことが判明しました。また、EPAにも同様の効果がありました。オメガ3系脂肪酸はこれまでも血流改善作用や脳の働きの活性化、循環器の保護作用などが知られていますが、歯周病の予防にもぜひ取り入れたい栄養成分です。
また、歯周病に対する最新の治療効果実験では、様々な抗酸化物質が試されています。プラークの周りに発生する活性酸素が、歯周病を悪化させているのです。そこで、酸化ストレスに対抗するために、抗酸化作用を示すビタミンCやビタミンE、ポリフェノールなどは歯周病対策で有効な素材として注目されています。さらに、免疫機能を介して病原菌と戦う試みも始まっています。全身の健康管理のためにも、お口の中の健康管理を大切にして、生涯に渡って健康的な歯を維持していきましょう。��(参考文献)�Sci Rep. 4: 4828 DOI: 10.1038 (2014)�PLoS ONE. DOI: 10.1371 (2015)�Clin Rev Immuno. 34, 347-357 (2014)�Gut. DOI: 10.1136 (2018)