【専門家ナビ】高畑宗明先生

≪腸の絨毛をリズミカルに!食べ方が腸の健康を左右します≫

 

・時間栄養学について理解して、美味しいものを美味しく食べよう・

 

日々の生活の中で、なかなか規則正しく生活することは難しいですよね。でも、なぜ朝が来て昼を経て夜を迎えるのか、なぜ一日3回ご飯を食べることが理想的なのかについて知っておくことは大切です。私たちの体は24時間のリズムを刻んでいて、これを「概日リズム(体内時計)」と呼んでいます。1997年に体内時計に関連する遺伝子が人間で初めて特定され、一気に体の時計に関する研究が脚光を浴びました。なかでも、栄養学の分野では「いつ、何を食べるか」に注目した「時間栄養学」が盛んに研究されています。

 

私は、どんな食べ物を食べるのが健康かについても興味がありますが、「美味しいものを楽しく食べる」ことが好きです。「これを食べたら病気になるかも、太るかも」と考えながら食事をするのは楽しくないですよね。そんなとき、時間栄養学が役に立ちます。つまり、何を食べるかよりも「いつ食べるか」をコントロールできると、太りにくかったり病気になりにくかったりします。

 

例えば、同じ量の食べ物を食べる時、朝1:夜3の割合で食べると太りやすいですが、朝3:夜1の割合で食べると太りにくいことが知られています。また、炭水化物は太ると言われますが、朝にしっかり食べて夜は控えめにすると、血糖値上昇も防ぎ肥満予防になります。そのため、私は結構好きなものを食べますが、朝や昼にしっかりと食べて、夜は炭水化物を控えめにして、食事の量も少なめにしています。

 

・小腸で栄養素を吸収する絨毛は、常に伸びているわけではありません・

 

私たちが口にした食べ物は、消化管で消化酵素によって細かく分解され、主に小腸から吸収されています。栄養素の吸収に深く関わっているのが、腸に無数に広がっている絨毛と呼ばれるひだ状の突起です。この絨毛を構成している腸の細胞を通過して、アミノ酸や糖、脂肪酸といった栄養素が血管やリンパ管に吸収され、体の栄養として利用されています。絨毛を平面に広げると、バトミントンコート一面分(以前はテニスコートと言われていました)にもなり、とても広い面積を使って栄養素を吸収してくれています。

 

実は、この絨毛は常に広がっているわけではないことがわかってきました。絨毛を作っている腸の細胞(上皮細胞)は、1〜3日くらいで生まれ変わっています。つまり、常に新鮮な細胞に保たれることで栄養素をきちんと吸収し、腸に70%集まっている免疫力を活発に働かせることができています。この絨毛の生まれ変わりは「空腹と摂食のリズム」を感じ取っています。実は、空腹のときには、小腸の絨毛はとても短くなっていて、食べ物が入ってくることで細胞が活性化して絨毛が伸びていくのです。

 

・一日の食べ方のリズムを調整して、腸を健康に保ちましょう・

 

では、お菓子などの間食が多かったり、ダラダラ食べ続けたりするような食事スタイルの場合は、絨毛はどうなるのでしょうか。この場合、絨毛は常に刺激され続けるため疲弊してしまい、腸の生まれ変わり(ターンオーバー)がきちんと機能しなくなってしまいます。また、過剰に栄養素を吸収し続けてしまうため、太りやすくなってしまいます。特に先進国の生活習慣病の増加は、小腸内に食べ物が無い時間がとても短くなっていることが原因ではないかと考えられています。

 

一方、断食を何日も行うなど常に絶食の場合はどうでしょうか。この時は食事からの刺激がないため、絨毛がほとんど見られなくなってしまいます。絨毛がないということは、外からの外敵を入れないための上皮細胞や免疫細胞がないことになり、感染症などのリスクが高くなります。例えば冬眠動物は数ヶ月に渡って絶食をしますが、その腸内は単純な管のような形になります。そのため、感染しないように動かずじっと身を潜めているのです。

 

一日の食べ方のリズムを調整して、小腸の絨毛のターンオーバーをきちんと繰り返させるには、やはり一日3食を規則正しく摂ることが理想です。朝食を7時、昼食を13時、夕食を19時とすると、それぞれの食事の間が6時間ずつで、夕食から翌日の朝食までが12時間空くことになります。12時間の絶食は腸の生まれ変わりを刺激するには適切な時間なので、腸を健康に保つために優れた食事リズムと言えるでしょう。もちろん、この通りに食べるのは難しいことも多いですが、なるべく近づけると無理なくダイエットしたり健康を維持したりすることができます。でも、前述したように夜のドカ食いは禁物です。

 

・急激なダイエットをしてしまうと、腸内細菌のタイプが「デブ菌」のままに・

 

太ってしまったときに、過度な断食で急激にダイエットしようとされる方もいらっしゃいます。でも、すぐにリバウンドしてしまうことも多いのではないでしょうか。実は、急激に断食などで痩せてしまうと、見た目には体重が減って血液データも改善しているように見えますが、腸内細菌のタイプが「デブ菌」のままであり、次に食べたときにとても太りやすくなることがNatureに発表されています。そのため、ダイエットを目指す際にも短期間で減量を目指すのではなく、少しずつ食事のリズムを整えて、量の配分も「朝3:夜1(昼は美味しいものを食べてもOK)」として痩せる方が、健康にも美容にもとても良い効果を発揮します。

 

また、腸の細胞のターンオーバーには腸内細菌が作る「乳酸」が必要であることも発表されています。食物繊維を摂取して乳酸を作る菌を活発にしたり、発酵食品を摂取したりすることでも乳酸が摂れます。ぜひ、日常の食事に活かしてみてください。

 

参考文献:

Nature 540, 544-551 (2016)

Persistent microbiome alterations modulate the rate of post-dieting weight regain.

協会顧問・高畑宗明 博士

職   業 博士(農学) 岡山県岡山市出身。 岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。現在、腸内細菌や乳酸菌についての研究を続けている。 一般の方々や小学生への講演・食育セミナーを通じて、啓蒙活動を行っている。
保 有 資 格 【経歴】 株式会社バイオバンク 統括部長 博士(農学) 2009【年3月 岡山大学大学院(博士後期課程)卒業 博士(農学)取得 2013年〜14年 麻布大学共同研究員 【業績】 ・論文発表 M. Takahata et al, OM-X®, a Fermented Vegetables Extract, Facilitates Muscle Endurance Capacity in Swimming Exercise Mice. Nat Prod Commun. 12, 111-114 (2017) M. Takahata et al, Fermented vegetable and fruit extract (OM-X®) stimulates murine gastrointestinal tract cells and RAW264.7 cells in vitro and regulates liver gene expression in vivo. Integrative Medicine. 4, 1-5 (2017) M. Takahata et al, OM-X®, Fermented Vegetables Extract Suppresses Antigen-Stimulated Degranulation in Rat Basophilic Leukemia RBL-2H3 Cells and Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction in Mice. Nat Prod Common. 10, 1597-1601 (2015)
ブ ロ グ
得意ジャンル 【書籍執筆】 「腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない」 講談社+α新書 「自分史上最高の腸になる! 腸で酵素をつくる習慣」 朝日新聞出版
趣   味

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