[女性ホルモンを大豆から!? 話題のエクオールを徹底解説]
大豆イソフラボンは
女性ホルモンに似た働きをします
みなさんは、「イソフラボン」という言葉を聞かれたことがありますか?イソフラボンは植物に含まれるフラボノイドの一種で、植物が外敵から身を守るために作る活性成分の総称です。その中でも、大豆に含まれる「大豆イソフラボン」に注目が集まっています。
大豆イソフラボンは、女性ホルモンの「エストロゲン」に似た構造をしているため弱い女性ホルモン様作用(女性ホルモンに似た働き)を示し、植物性エストロゲンとも呼ばれています。エストロゲンは「エストロゲン受容体」というセンサーに結合することで、生殖機能の形成や細胞の増殖を促進する働きがあります。大豆イソフラボンもこのセンサーに働きかけるため、女性のホルモンバランスや更年期障害に対する効果において着目されています。
腸内細菌によって作られる
「エクオール」が注目されています
大豆に含まれている主なイソフラボンは「ダイゼイン」「ゲニステイン」です。しかし、最近の研究ではダイゼインやゲニステインは、腸に届いたのちに一部の腸内細菌によって「エクオール」という成分に変換されることで、初めて女性ホルモン様作用が高まると言われるようになりました。このダイゼイン→エクオールの変換を行なっている腸内細菌を、一般的に「エクオール産生菌」と呼んでいます。現在、エクオール産生菌は20種類くらいが発見されています。
日本人の約半分の人でしか
エクオールが腸内で作られません
ここで注意が必要なのは、エクオールは全ての人で作られているわけではない点です。エクオール産生菌を腸内に保有しているのは、日本人では約50%、アメリカやヨーロッパの人は約20〜30%と発表されています。つまり、日本人のうち2人に1人はエクオールが作られないのです。
ただし、エクオールが産生できないからといって、大豆を摂取した際に女性ホルモン様作用が期待できないわけではありません。あくまでも、エクオールの方がダイゼインやゲニステインよりもエストロゲンに似た構造をしているからであり、変換できない人であっても大豆イソフラボンの効果は得ることができます。また、実際の女性ホルモンと比較するとエクオールの効果は数%に過ぎないため、エクオールが作られないからといって神経質になり過ぎる必要はありません。最近は、エクオールが作られているかどうかを尿検査で調べる検査キットも発売されています。気になる方は試してみてはいかがでしょうか。
エクオールが作られるからといって
食事バランスの乱れは要注意!
エクオール産生者であっても、食生活が乱れているとその恩恵を受けにくいことも知られています。エクオール産生量は、炭水化物をきちんと食べている方が増加することが発表されています。つまり、糖質制限によって炭水化物の摂取量が少なくなると、エクオール産生量が減少してしまうのです。また、食物繊維、緑茶、魚油、海藻も、摂取量が少ない人ではエクオール産生量が低下することも報告されています。
マウスを用いた実験では、エクオールの産生能は食物繊維やレジスタントスターチ(難消化性デンプン)の摂取によって増加することも示されています。食物繊維は野菜やキノコなどに含まれる多糖類です。レジスタントスターチは、人間の消化酵素で消化されにくいデンプンのことで、冷えたおにぎりや青みがかったバナナ、ふかし芋などに含まれます。これらはビフィズス菌などの善玉菌を増やす効果があり、善玉菌の増加によってエクオール産生が促されています。
エクオールが作られなくても栄養価に
優れた大豆を積極的に食べよう!
エクオール産生能と骨に関するデータも報告されています。閉経後の骨粗しょう症を模したマウスでは、エクオールが腸内で産生されると骨量の減少が抑制されることが分かっています。
ヒト試験では、閉経後女性の骨密度はエクオール産生者において、より強く骨量減少が抑制されていました。他にも、エクオール産生者では閉経後女性において体内の健康状態を良好に保つことや、更年期障害が緩和することも発表されています。ただし、最初にもお伝えしたように、ダイゼインやゲニステインなどの他の大豆イソフラボンと比較してエクオールが効果を得やすいという内容ですので、他の大豆イソフラボンが効かないわけではありません。
また近年の日本では、食事の欧米化に伴って大豆食品摂取量や頻度、食物繊維摂取量が低下しており、若年層でのエクオール産生者の低下が心配されています。大豆にはイソフラボンのみではなく、タンパク質が多いためアミノ酸の摂取源としても有用です。さらに炭水化物やビタミン・ミネラルも含み栄養素がバランス良く含まれている優れた食材ですし、善玉菌を増やす大豆オリゴ糖も摂取できますので、積極的に食卓に取り入れてみましょう。
エクオールをそのまま摂取するサプリメントも販売されていますが、個人的には腸内細菌全体に栄養を与える方が、ホルモンバランスや健康面で効果的だと考えています。大豆を発酵させた日本の味噌や納豆は、大豆の効果も得られますし、発酵菌や菌が生み出す多彩な栄養素が得られるため、ぜひ継続して発酵食品を食べていきましょう。
(参考文献)
・化学と生物 51, 74-77 (2013)
・Menopause. 24, 216-224 (2017)
・ J Obstet Gynaecol Res. 42, 1575-1580 (2016)