[専門家ナビ]女性は腸が乱れやすい!? 女性ホルモンと腸の関係性

女性ホルモンとは一生の付き合い!腸の活動にも深い関わりがあります

 

普段生活をしている中で、なんとなく「男性はお腹が弱くて下痢になりやすい」や「女性は便秘が多い」といった話を聞く機会もあるのではないでしょうか。実はそれらは性別、つまり性ホルモンと深い関わりがあります。特に女性の場合、女性ホルモンの状態が腸に大きな影響を与えています。

女性ホルモンは「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種。女性ホルモンは月経周期や妊娠、更年期前後、ホルモン治療などにおいて大きく変化することが知られています。女性の日常において、脳の視床下部の指令を受けて卵巣から女性ホルモンが分泌され、血液に乗って全身に送られています。この2つのホルモン量は、一定の周期でそれぞれの分泌量のバランスを変えながら、女性の体や精神面に作用しています。生理から排卵まではエストロゲンが優位になり、排卵から次の生理まではプロゲステロンが優位になります。

実はエストロゲンは腸や内臓の運動性に影響を与えています。エストロゲンが多く分泌されている時期は腸の動きが活発になります。一方、プロゲステロンは腸の動きを抑制し、体内の水分を保持したり食欲を増進させたりする働きがあります。

つまり、プロゲステロン量が増加すると大腸からの水分吸収が盛んになり、便中の水分が少なくなります。また食事摂取量の増加も加わって便秘がちになってしまうのです。妊娠中もプロゲステロン量が増加しますので、便秘がちになったり食欲が増加したりします。

便秘だけじゃない!

セロトニン分泌も女性ホルモン次第

女性ホルモンは、脳の視床下部や自律神経に働きかけるため、気持ちの面にも関係しています。エストロゲンが増加すると幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの働きが正常化し、精神的に安定し体調が良好になります。

逆にエストロゲンが減少してプロゲステロンが増加すると、セロトニンの機能が弱まり、気持ちが不安定になりやすく体の調子も乱れがちになります。つまり、ストレスへの反応性にも男女差があり、女性ホルモンの状態が深く関わっているのです。

IBSは男性の病気!?

いえ、女性の方が患者数が多いのです

みなさんは過敏性腸症候群(IBS)という言葉をご存知でしょうか? 主にストレスが原因といわれていて、お腹の痛みや不快感に便通障害を伴う症状が続く病気のことです。IBSはテレビCMなどの影響から、男性が罹りやすい、つまり下痢になりやすい病気というイメージがあります。しかし、日本では1:2くらいで女性が2倍も患者数が多く、外国も合わせるとその重症度は1:4以上ともいわれています。実はIBS=下痢というイメージは間違いで、男性は確かに下痢型が多いのですが、女性は便秘型になることが多いのです。

女性のIBSの発症は

ホルモンバランスの乱れと連動します

このIBSの罹患率や症状の悪化も、女性ホルモンの影響が強いと考えられています。実際、女性IBS患者の約40%が月経周期の乱れに原因があることが知られています。女性のIBSは思春期から更年期に向かう時期とも連動しており、ホルモンバランスが乱れがちな10代後半から40代半ばで多いことも特徴です。便秘は食物繊維の不足と考えられていますが、女性ホルモンの乱れやストレスも大きな原因のひとつです。さらに、女性のIBSと併発している症状に、繊維筋痛、偏頭痛、慢性骨盤痛、慢性疲労症候群などがあります。

腸内細菌にも性差が!

自己免疫疾患にも深く関わっています

私たちの腸の健康と深く関わっているのが腸内細菌です。腸内細菌は人の免疫システムにとても大きな役割を担っています。この腸内細菌の状態も、男女差があるのではないかと考えられるようになりました。

ネイチャーコミュニケーションズという科学雑誌で、魚、マウス、人を対象にした性別と食事の内容の関連性についての調査結果が発表されました。その結果、魚もマウスも人も、食事の内容が腸内細菌のバランスに大きく影響していることが確認され、同時に性別によって差が見られることもわかりました。

腸内細菌と性ホルモンのバランスの関連性は、免疫に関わる病気の患者数にも現れています。アメリカでは自己免疫疾患に罹患している患者は850万人で、その80%が女性であると報告されています。日本でも女性の比率は男性の2〜10倍高く、女性ホルモンと免疫との関係性が着目されています。そして、マウスの実験では自己免疫疾患を発症している雌の腸に雄の腸内細菌を移植すると症状が抑制されるなど、腸内細菌の性差が病気の状態に関係していることも発表されています。

なぜ女性に自己免疫疾患が多いのか、その理由は明確ではありません。しかし、半分自分の細胞ではない受精卵を排除せずに受け入れるなど、女性特有の特徴が免疫状態の変化に関係しているという予測がされています。いずれにしても女性は腸の状態が乱れやすいため、普段から一層の腸内環境ケアが大切です。今回は女性ホルモンに関する腸の乱れの特徴をご紹介しましたが、次回以降におすすめの食事や生活習慣をお届けします。

(参考文献)

・Nat Commun 5, doi:10.1038/ncomms5500(2014)

・日大医誌 72, 150-153 (2013)

・Immunity 39, 400-412 (2013)

協会顧問・高畑宗明 博士

職   業 博士(農学) 岡山県岡山市出身。 岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。現在、腸内細菌や乳酸菌についての研究を続けている。 一般の方々や小学生への講演・食育セミナーを通じて、啓蒙活動を行っている。
保 有 資 格 【経歴】 株式会社バイオバンク 統括部長 博士(農学) 2009年3月 岡山大学大学院(博士後期課程)卒業 博士(農学)取得 2013年〜14年 麻布大学共同研究員 【業績】 ・論文発表 M. Takahata et al, OM-X®, a Fermented Vegetables Extract, Facilitates Muscle Endurance Capacity in Swimming Exercise Mice. Nat Prod Commun. 12, 111-114 (2017) M. Takahata et al, Fermented vegetable and fruit extract (OM-X®) stimulates murine gastrointestinal tract cells and RAW264.7 cells in vitro and regulates liver gene expression in vivo. Integrative Medicine. 4, 1-5 (2017) M. Takahata et al, OM-X®, Fermented Vegetables Extract Suppresses Antigen-Stimulated Degranulation in Rat Basophilic Leukemia RBL-2H3 Cells and Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction in Mice. Nat Prod Common. 10, 1597-1601 (2015)
ブ ロ グ
得意ジャンル 【書籍執筆】 「腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない」 講談社+α新書 「自分史上最高の腸になる! 腸で酵素をつくる習慣」 朝日新聞出版
趣   味

facebook