前回、2018年中にアメリカとカナダがトランス脂肪酸を含む油脂の全面規制が始まるという話を書きました。
アメリカは6月、カナダは9月に施行されるのですが、先日日本でもこの海外での動向に合わせるように乳業大手が相次いでトランス脂肪酸を多く含む油脂の使用を取りやめる意向を示しました。
トランス脂肪酸は、元々液体の植物油からマーガリンなどの硬化油を作る際に使われる「部分水素添加油脂」に多く含まれます。
明治乳業は、2018年3月までに、コーンソフトなどの家庭用マーガリン全10品で部分水素添加油脂の使用をやめると発表しました。コーンソフトの場合、トランス脂肪酸の量が従来品の1割に減ったとのこと。
また雪印メグミルクも3月以降、ネオソフトなどの家庭用マーガリン12品で、部分水素添加油脂の使用を取りやめると発表しています。
トランス脂肪酸は心筋梗塞などの虚血性心疾患をはじめ、乳がんや前立腺がん、糖尿病、うつ病、アルツハイマー型認知症、不妊(男女とも)、子宮内膜症など様々な疾患との関連が示唆されています。そして、アメリカやカナダだけでなく、ヨーロッパ各国や韓国、台湾、中国などのアジア諸国でも以前から国家レベルでトランス脂肪酸の規制が積極的に行われいてます。
しかし日本の厚生労働省は、日本人はトランス脂肪酸の摂取量が海外に比べて遥かに少なく平均摂取量が1グラム以下、WHOが勧告している一日の総エネルギーの1%以下(約2グラム)を遥かに下回っているため、今後も国としての規制に向けた動きはありません。
一方で、2010年に東京大学の研究チームが発表した内容によると、平均摂取量自体は1%以下ですが、性別・年齢別では男性よりも女性が、また若年になるほど摂取量が増え、1%を上回っている人もいるとのことで、国として規制すべきとの意見も多く上がっています。
そんな中での、今回の企業による自主規制は素晴らしいことだと思います。
そしてトランス脂肪酸に関してお伝えしたいことがもう一点。
私ごとですが、先日日本リポニュートリション協会という、脂質栄養関連の協会を設立しました。
その活動の一環として、海外の研究所と提携して体内(細胞膜)の脂肪酸の割合を測定する検査を導入する予定で、昨年末からモニターの測定をしていました。その検査はトランス脂肪酸の割合も測れるのですが、数人を除いてほぼ全員問題のない数値でした。研究所の方曰く、日本人は昔からトランス脂肪酸の割合がとても少ないとのことでした。
ただ、東大の発表と同じく、実測でも数値の高い方がいたのも事実で、要は個人差が大きく出るため、加工品やお菓子類を多く食べる人は注意が必要だと感じました。
それと同時に、厚生労働省の言うように現時点では日本人のトランス脂肪酸摂取量は少なく、ほとんどの人はそれほど神経質にならなくても大丈夫なのかもしれない…とも感じました。
そして、測定して分かったのが、トランス脂肪酸以上にオメガ3:オメガ6バランスが崩れていることが問題だということ。
想像以上に多くの方が危険値で、その中でも特にオメガ3のEPAとオメガ6のアラキドン酸の比率(EPA/AA比)が崩れている人が多かったです。
EPA/AA比については以前のコラムでも書きましたが、このバランスが崩れると、心血管系疾患やがん、糖尿病やアレルギー、脳疾患など、全身に様々な不具合が起こります。まさにトランス脂肪酸の過剰摂取と同じような状態です。
それにも関わらず、トランス脂肪酸の危険性については多くの方が知っていて、尚且つそれほど危険な状態の人がいないという現状に対し、EPA/AA比の重要性や、バランスを崩すことによる危険性については、専門家以外の方にはまだあまり知られていません。
実は脂質研究者の中では、トランス脂肪酸よりも不飽和脂肪酸のバランスを重要視する方が多いのです。
もちろんトランス脂肪酸の摂取は少なくすることに越したことはありませんが、そこだけに偏らず、他の脂肪酸の摂り方にも意識を向けてもらいたいと、改めて思いました。