【専門家ナビ】『トランス脂肪酸ってそもそもなぁに?』

「トランス脂肪酸は体に悪い」ということは、皆さん耳にしたことがあると思います。

「マーガリンやショートニングなどの加工油脂にはトランス脂肪酸が含まれる」というのも、多くの方に知られるようになりました。

 

昨年10月には、カナダの保健省が2018年9月に国内全土でトランス脂肪酸の使用を禁止することを発表しました。また、アメリカの米食品衣料品曲(FDA)は、2015年に「トランス脂肪酸は食用としての安全性が認められない」との理由で、3年間の猶予期間を経て2018年6月に全面禁止とすることを発表しました。さらに遡ると、FDAは2006年に食品への含有量表示を義務づけ、2013年にはトランス脂肪酸の使用を段階的に禁止する方針を表明しています。その結果、すでにトランス脂肪酸の消費量は78%も減少していますが、全面的に禁止することで致命的な心臓病を更に年間数千件減らすことができるとしています。

 

ヨーロッパ諸国やアジア圏の国でも、もう何年も前から食品に含まれるトランス脂肪酸の使用規制や量の表示義務などを設けています。

 

こんなにも世界中の国々で危険視されているトランス脂肪酸とは、一体どのようなものなのでしょうか?

 

私たちが食べている油脂は様々な種類の「脂肪酸」で構成されています。脂肪酸は分子構造上、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類できます。飽和脂肪酸は鎖状に繋がった炭素(C)に全て水素(H)が結合している飽和状態の脂肪酸で、常温で固体のものが多いです。一方の不飽和脂肪酸は炭素(C)の周りに水素(H)がついていない場所(二重結合)のある脂肪酸です。不飽和脂肪酸は二重結合の周りの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。

「シス」とは「同じ側の、こちら側に」という意味で、シス型脂肪酸とは二重結合を挟んだ炭素(C)に結合している水素(H)が同じ側についていることを表しています。自然界に存在する不飽和脂肪酸のほとんどはシス型で、鎖長や二重結合の数や位置の違う脂肪酸が多種類あります。

 

一方トランス型脂肪酸の「トランス」とは、「向こう側に、横切って」という意味で、水素(H)が炭素(C)の二重結合を挟んでそれぞれ反対側についていることを表しています。一般的にトランス脂肪酸というと一つの脂肪酸を表しているように思われますが、シス型脂肪酸と同じように鎖長やトランス型結合の数や位置によって何種類もあります。そして種類によって活性が異なるので、実は全てのトランス脂肪酸が体に悪いわけではないという報告も増えていますが、今の所その種類を特定することが難しいため、ひとくくりに「トランス脂肪酸は避けるべき」と捉えられています。

 

トランス脂肪酸は自然界にはほとんど存在しませんが、反芻動物がシス型脂肪酸を食べると胃の中の微生物によって一部がトランス型に変わるので、牛肉や乳製品には天然のトランス脂肪酸が多少含まれます。

 

ただ、このトランス脂肪酸は微量なため、相当多食しない限りそれほど問題にはなりません。

 

問題なのは、植物油の加工過程で生成されるトランス脂肪酸です。

不飽和脂肪酸の二重結合(水素が欠けている箇所)に水素を添加すると、飽和脂肪酸のような形になり、融点が上がって固体化します。液体の植物油からバターのような食感の油脂を作るには、全ての二重結合に水素を添加するのではなく、部分的に水素を添加するのですが、その時に一部の脂肪酸がトランス化してしまうのです。マーガリンが作られた当初は、動物性脂肪よりも植物性脂肪がヘルシーと言われていた時代だったのと、バターよりも安価なため、あっという間に世界中に広まりました。

 

しかしその後、トランス脂肪酸が心臓病のリスクを高めることが認められたため、世界各国でマーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸を含有している油脂の使用が制限されるようになったのです。

 

近年では心臓病だけでなく、癌や糖尿病、炎症性疾患、アレルギー、うつ病、認知症、乳児の発育障害などとの関わりも報告されています。

 

トランス脂肪酸がなぜこんなにも全身に悪影響を与えるかというと、それは全身の細胞膜を作っているのが脂質だからです。細胞膜はリン脂質という脂質が主成分で、そのリン脂質には2本の脂肪酸が結合しています。ここにトランス脂肪酸が入ってしまうと、正常な細胞膜の機能が維持出来ず、細胞自体の働きが悪くなったり、ひいては細胞が死んでしまったりします。それが心臓で起これば心筋梗塞や心不全に、脳で起これば脳疾患や認知症に、血管内皮細胞で起これば動脈硬化症を引き起こし、様々な疾患に繋がったりします。また、太りやすい、皮膚が荒れる、疲れが取れない、老化が進むなどの症状でも現れます。

 

 

では、世界各国で禁止や規制をされる中、なぜ日本では何の規制もないのでしょか?

 

それは摂取量が少ないからという理由です。

 

WHOはトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギーの1%未満にするように勧告していて、それを平均的な日本人に当てはめると、一日2グラム未満ということになります。農林水産省の調査(2008年)によると日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は0.92~0.96グラムで、勧告値を大きく下回るため、規制の必要はないとの判断のようです。また近年は食品企業の自主的な対応によって、食品中のトランス脂肪酸は減少してきているとも言われています。

 

しかし一方で、若い世代では10%を超える人が勧告値を大幅に超える一日3グラムのトランス脂肪酸を摂取しているという報告もあり、かなり個人差があるようです。

 

日本は表示義務もないので、自分がどのくらいトランス脂肪酸を食べているのか分かりにくいと思いますが、農水省のホームページなどで主な食品のトランス脂肪酸含有量が出ていますので、一度自分の食事と照らし合わせてみると良いかと思います。

 

どのような食材にトランス脂肪酸が多いかの目安にもなるので、ぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

協会顧問・地曳直子

職   業 一般社団法人日本インナービューティーダイエット協会 顧問 地と手 代表 国際食学協会 特別講師 一般社団法人日本オイル美容協会 理事
保 有 資 格
ブ ロ グ
得意ジャンル 脂質栄養学
趣   味

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