先日アメリカのテンプル大学の研究チームが、キャノーラ油が脳に与える影響について発表しました。その内容は、アルツハイマー病のマウスにキャノーラ油を与えたところ、学習能力や記憶力が低下し、体重増加を招くことが判明したとのこと。キャノーラ油は現在、一般的な食用油として世界的に使われていますが、この研究発表はイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』にも取り上げられ、このごく身近な食用油が脳にどれほどのダメージを与えるかについて伝えています。
この研究は、アルツハイマー病になるように遺伝子操作されたマウス(まだ発症はしていない)を2群に分け、一方は通常の食事、もう一方には毎日小さじ2杯のキャノーラ油を摂取させて脳の状態を測定したものです。すると1年を経過した時点で、2つのグループの間に決定的な違いが生まれました。キャノーラ油群は、そうでないマウスよりも体重が重く、更に、短期記憶(今日やるべきことなど、一時的に保存するだけの情報)と作業記憶(好きなケーキのレシピなど、一時的に保持した後で更に処理する情報)が低下していました。そこで、キャノーラ油を摂取したマウスの脳内を調べたところ、有害な『アミロイドβ42』から脳を守る働きがある『アミロイドβ1-40』が減少し、その結果アミロイドβ42が脳に沈着していました。
アルツハイマー病は、脳にアミロイドβというタンパク質が溜まることを引き金に、タンパク質が糸くずのように集まり、脳の神経細胞が変性したり脱落したりして脳が萎縮することが分かっていますが、その中のアミロイドβ42は特に脳の中で固まりやすく、タンパク質の蓄積を促してアルツハイマー病を発症させる原因であるとされています。
キャノーラ油と脳に関する研究は、実は日本でも20年以上前から行われていて、ラットに5種類の植物油を与えて育てたところキャノーラ油を摂取した群だけが落ち着きなく異常な行動を起こすことが分かっていました。その原因は不明でしたが、今回のアメリカの研究と合わせ見ると恐らく脳内でアミロイドβ42という有害物質が蓄積したことに起因すると考えられます。
そして更に、キャノーラ油の害は脳に対してだけでなく、動物実験では腎臓障害は膵臓障害、それに伴うインスリン分泌阻害と糖尿病発症促進、環境ホルモン作用など様々な害が見つかっています。
環境ホルモン作用というのは、正式には内分泌かく乱作用と言って、性ホルモンの働きを狂わせる作用のことです。キャノーラ油を与えたマウスでは男性ホルモンのテストステロンが減って生殖能力が低下します。研究者によると、ヒトがキャノーラ油を日々の食事で使った場合、環境ホルモン物質で有名なダイオキシンよりも危険性は高いとされています。
では、キャノーラ油とはそもそもどんな油なのでしょうか?
よく耳にする名前ですし、もしかしたらヘルシーなイメージをお持ちの方もいると思います。
キャノーラ油は菜種油の一種です。元々菜種油には甲状腺を肥大化させる毒性物質や心臓に脂肪を蓄積させて心疾患を誘発させるエルカ酸という脂肪酸が含まれていたため食用には向かず、主に灯明用に使われていました。そこでカナダの研究者が品種改良をして、有害物質を大幅に減らした品種を作ることに成功し、その品種をCanadaにちなんで『キャノーラ種』と名付けたのが始まりです。
脂肪酸組成は、一価不飽和脂肪酸でオメガ9のオレイン酸が約60%、多価不飽和脂肪酸でオメガ6のリノール酸が約20%、オメガ3が約10%。脂肪酸組成だけで見ると酸化しにくく加熱調理も可能、体内で炎症を起こす物質に変わるオメガ6のリノール酸の含有量も少なく、優秀な植物油に思えます。
でも実は、植物油を選ぶ時には脂肪酸以外にもう一つ注目しなければいけないことがあります。
それはファイトケミカルやビタミン類などの微量成分。特にファイトケミカルは植物が生きて子孫を残すために独自に作り出す成分なので、少量でもとても強力な作用を持つことがあります。そしてそれが脂溶性の場合は油に溶け込みやすく、脂溶性物質は摂取すると体内に蓄積しやすいものがあるので注意が必要です。
オリーブオイルが体に良いと言われているのも、オリーブだけに含まれるファイトケミカル(オレウロペインやオレオカンタールなど)によるものですが、キャノーラ油が脳やその他の臓器に有害性を持つのも菜種科の植物独特の微量成分によるものだと考えられています。
このように微量成分は種類によって毒にも薬にもなるものなのです。
他にも数種の植物油に、人に悪影響のある微量成分が含まれるのが分かっていますが、植物油の微量成分の研究はまだまだこれからの分野であり、キャノーラ油の有害物質もまだはっきりと解明されてはいないのが現状です。
ただ、原因物質やメカニズムの解明がまだであっても、そしてそれが動物実験の結果であっても、食べることでアルツハイマー病をはじめ様々な疾患を起こすリスクのある油を安心しては食べられないな、というのが私の個人的な考えです。
お家で使う油を選ぶ時は、美味しいというのに加えて、ぜひ脂肪酸組成や微量成分、製造方法などにも注目して安全なものを選んでいただきたいと思います。