【専門家ナビ】プロバイオティクスとプレバイオティクス

腸内環境を整える目的で、生きた乳酸菌やビフィズス菌を毎日摂っている方も多いのではないでしょうか。生きたまま腸に到達し、私たちの体の健康にとって有益な働きをする微生物を「プロバイオティクス」といいます。色々なヨーグルトメーカーが自社のオリジナルの菌をヨーグルトに配合し、「プロバイオティクス菌●●株」として販売しています。最近では、死んでいる菌、つまり「死菌」も免疫刺激作用などプロバイオティクスと同じような働きをすることが分かってきており、死菌が色々な食品や飲料に配合されるようになっています。

 

一方、プロバイオティクスだけでは腸内環境を改善するには十分ではないという意見もたくさんあります。私たちの腸には100〜1000兆個、1000種類以上もの腸内細菌が住んでいます。つまり、このように数も多くて種類も豊富な環境に1種類の菌だけを外から摂取しても、効果は限定的であると考えられるようになってきています。また、疾病を抱えていたり、便秘や疲労で悩んだりしている方の腸内細菌は、豊富な種類全体の構成バランスが乱れていることも分かっています。

 

そこで注目されているのが「プレバイオティクス」という考え方です。プレバイオティクスは約20年前に提唱され始めた考え方で、「人間の消化管では消化吸収されずに大腸に到達し、大腸に常在している有益な微生物のエサとなり、腸や体全体の健康に対して有益な作用をもたらす食品成分」です。つまり、プロバイオティクスは「生きた菌」であるのに対し、プレバイオティクスは「良い菌を増やす食品成分」となります。

 

プレバイオティクスが提唱され始めた頃、腸の中に常在している善玉菌は主に「乳酸菌」と「ビフィズス菌」と考えられていました。そのため、プレバイオティクス素材も、これらの菌を増やすことができるオリゴ糖(フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌリン)が該当するとされており、今日でも多くのプレバイオティクス製品はオリゴ糖製品が中心になっています。

 

しかし、近年は技術が進歩して、腸に住んでいる善玉菌は乳酸菌やビフィズス菌だけではないことが判明してきています。例えば、大腸の細胞の生まれ変わり(ターンオーバー)や免疫細胞の活性化、食欲の抑制、大腸がんの予防、抗菌作用などに関わっている短鎖脂肪酸を作り出すフィーカリバクテリウム菌やロゼブリア菌も近年提唱されている善玉菌です。また、免疫力に関わっているフラジリス菌、痩せ型体型に関係しているクリステンセネラセア菌、女性ホルモンに似た物質を作るエクオール菌など、様々な新しい善玉菌が提唱されています。こうした菌は外からは摂取できず、それぞれ大腸でエサとしている食品成分が異なっているため、以前のようにオリゴ糖だけを摂取すれば良いという考え方から、新たな概念へとプレバイオティクスも発展してきています。

(Nature Rev. 14, 491-502 (2017))

 

さらに、腸内環境を整えるために大切なことは、バランスを整えることです。プロバイオティクスのところでもお伝えしましたが、何かの菌だけを摂取したり、何かの菌だけを増やしたりすると、逆にバランスを乱してしまう可能性があります。腸内細菌たちはお互いが協力し合いながら、時に何かの微生物が作った物質を他の菌が利用して新たに違う成分を作っています(cross-feeding作用)。そのため、腸にとって良いとされるプレバイオティクス成分を、色々と摂取することが腸全体のバランスを整えることにつながります。

 

一般的に、プレバイオティクスとしてはオリゴ糖や食物繊維、最近ではレジスタントスターチなどが有名です。一方、最近の研究では他にも様々な成分がプレバイオティクス効果を発揮することがわかってきています。その中から、注目されている成分をいくつかご紹介いたします。

 

・不飽和脂肪酸

中高年女性876人を対象にオメガ3系脂肪酸の摂取量や血中濃度を調査し、善玉の腸内細菌の多様性と種類の多さを検証しました。その結果、オメガ3系脂肪酸の摂取量が多い女性では、血中のオメガ3系濃度が高く、腸内細菌も多様に存在していることがわかりました。

また、ラクノスピラ科という種類の微生物が有意に多いこともわかっています。この菌は感染予防や肥満予防に関わる菌であり、腸の炎症抑制にも関連しています。

(Sci Rep. 7, 11079 DOI:10.1038/s41598-017-10382-2 (2017))

 

また、マウスでの研究ですが、飽和脂肪酸の豊富なラードを多く与えると、炎症を起こす悪玉菌が増えるのに対し、不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸が豊富な魚油を与えると、炎症と肥満を抑制するアッカーマンシア菌や乳酸菌が増えることも報告されています。

(Cell Metabolism. 22, 658-668 (2015))

 

・ポリフェノール

野菜や果物、香辛料、穀物、茶類などに含まれる成分。そのうち90〜95%は小腸で吸収されず大腸に到達することがわかっています。特に、リンゴやブドウなどに含まれるプロシアニジン類や、ウーロン茶や赤ワインのタンニン類などの高分子ポリフェノールは、プレバイオティクス候補として注目されています。マウスでの研究では、リンゴ由来のプロシアニジン摂取によりアッカーマンシア菌が増加し、肥満細菌叢の指標であるバクテロイデーテス門/ファーミキューテス門の比率が改善していました。

(Sci Rep. 6, 31208 (2016))

 

他にも、カテキン、ブルーベリー抽出物、ザクロ、アーモンド果皮、ココア、ブドウ、赤ワイン抽出物など、多くの食品中に含まれるポリフェノールによって、善玉菌の増加や病原性菌の感染防御作用などが報告されています。

(Biomed Res Int. DOI: 10.1155/2015/850902 (2015))

 

このように、多くの食品成分中には腸内細菌のバランスを整える効果があります。こうした食品を日常の食事に取り入れることも大切ですが、何よりも腸内細菌のバランスを整えるためには「少量ずつたくさんの種類の食品」を口にすることが必要です。食卓を彩り豊かにすると、自然とプレバイオティクスが豊富な種類含まれる食事になりますので、偏りをなくして色々な食材を選ぶことを心がけましょう。

協会顧問・高畑宗明 博士

職   業 博士(農学) 岡山県岡山市出身。 岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。現在、腸内細菌や乳酸菌についての研究を続けている。 一般の方々や小学生への講演・食育セミナーを通じて、啓蒙活動を行っている。
保 有 資 格 【経歴】 株式会社バイオバンク 統括部長 博士(農学) 2009年3月 岡山大学大学院(博士後期課程)卒業 博士(農学)取得 2013年〜14年 麻布大学共同研究員 【業績】 ・論文発表 M. Takahata et al, OM-X®, a Fermented Vegetables Extract, Facilitates Muscle Endurance Capacity in Swimming Exercise Mice. Nat Prod Commun. 12, 111-114 (2017) M. Takahata et al, Fermented vegetable and fruit extract (OM-X®) stimulates murine gastrointestinal tract cells and RAW264.7 cells in vitro and regulates liver gene expression in vivo. Integrative Medicine. 4, 1-5 (2017) M. Takahata et al, OM-X®, Fermented Vegetables Extract Suppresses Antigen-Stimulated Degranulation in Rat Basophilic Leukemia RBL-2H3 Cells and Passive Cutaneous Anaphylaxis Reaction in Mice. Nat Prod Common. 10, 1597-1601 (2015)
ブ ロ グ
得意ジャンル 【書籍執筆】 「腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない」 講談社+α新書 「自分史上最高の腸になる! 腸で酵素をつくる習慣」 朝日新聞出版
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