「わしは、口では言わんから、よく見て覚えるのだぞ」
職人やスポーツの世界で言われているような、弟子が師匠の技術を「見て盗む」ということは、科学的に正しいということが判明しました。その本質が、「ものまね神経細胞」こと、「ミラーニューロン」の発見です。
1996年、イタリアの研究者が、猿自身が餌をつかみ取ろうとする時に活動する神経細胞が、実験者が餌をつかみ取っているのを見ている時でも活動することを発見しました。これは、まるで、「鏡」のようだと考えて「ミラーニューロン」と名づけられました。
このミラーニューロンは、運動に関してだけではなく、目標と意図を理解したり、他者との共感や言語獲得にも大きく寄与しているといわれ、いまでも精力的に研究が続けられています。
このミラーニューロンのシステムは、生後12ヶ月には完成していると言われていますので、その時点ですでに両親など自分以外のヒトの行動の影響を受けるということです。
例えば、お母さんが子どもに微笑むと微笑み返すというような簡単なコミュニケーションから、話し方や食べ方、真似してほしくない癖までを子どもたちは模倣していきます。
実は、私たち人間という生き物は、ある意味、ゼロから自分の頭で閃いて成長するというのではなく、モノマネにより成長する生き物なのです。
ということは、子どもたちに、いますぐ何が必要なのかというと、なんでもやらせてみたり、見させたり、触れさせてみたり、聞かせてみたりすることが重要です。
こうしたことを継続的に続けていくと、子どもたちは、共感することを覚え、他人の心を感じることができるようになるはずです。そして、子どもたちは自ら考え、行動し、社会的にも成熟しながら成長をしていくことでしょう。
私たちが他人に優しく出来る理由は、優しくされてきたからです。
ということは、もし、皆さんが子どもたちに優しくなって欲しいと思っているなら、皆さんが子どもに優しく接しなければいけないということです。
これが、私たちの脳に備わっている、ものまね力、ミラーニューロンの力といえるでしょう。
それでは、親の好きなことだけに触れさせればいいかというと、もちろんそうではありません。
2013年に公開された映画、東野圭吾原作の『真夏の方程式』にこんな台詞がありました。
「すべてを知った上で、自分の進むべき道を決めるために」
これは子供の教育にも通じます。子どもたちには、あらゆる経験をさせること、いろんな人に会うことが必要で、そして、自ら選択させることが重要なのです。
そうすれば、ミラーニューロンシステムが、子どもたちの脳力だけではなく、社会性をも育んでくれるでしょう。