今回は脂肪酸から作られる生理活性物質のお話です。
生理活性物質というのは、簡単に言うと体を調節する役割をもった物質のことで、ホルモンや神経伝達物質などもこれにあたります。
私たちの体内では、食べ物を分解したり、エネルギーを作り出したり、侵入してきた敵から身体を守る など様々な生命活動が行われていて、絶えず変化しています。しかしながら、その変化をしながらも常 に身体を一定の状態に保つ機能が生体には備わっています。それをホメオスタシスまたは恒常性の維持 機能といい、よく知られているところでは、自律神経系や免疫系、内分泌系(ホルモン)がありますが、 実は脂質由来の生理活性物質もその一端を担っています。
脂肪酸から作られる代表的な生理活性物質に『エイコサノイド』があります。エイコサノイドには「プ ロスタグランジン」、「ロイコトリエン」、「トロンボキサン」の3種類があります。
エイコサノイドの“エイコサ”はギリシャ数字の20を表しています。つまり、エイコサノイドは炭素数20 の不飽和脂肪酸から作られる生理活性物質ということです。
エイコサノイドの原料となるのは、細胞膜を構成しているオメガ6のジホモ-γ-リノレン酸、アラキド ン酸(AA)、オメガ3のエイコサペンタエン酸(EPA)です。
ちなみに、エイコサペンタエン酸の“ペンタ”はギリシャ数字の5、“エン“は二重結合を表しているので、 エイコサペンタエン酸(EPA)は「炭素(鎖長)が20で、二重結合が5ヶ所ある脂肪酸」ということを表して います。そして同じオメガ3系のドコサヘキサエン酸(DHA)は”ドコサ”が22、“ヘキサ”が6なので、 「炭素(鎖長)が22で、二重結合が6ヶ所ある脂肪酸」ということになります。
話がそれましたが、細胞に何らかの刺激が与えられると、細胞膜を構成しているこれら3種類の脂肪酸 からエイコサノイドが作られます。エイコサノイドは『局所ホルモン』とも呼ばれますが、厳密にはホ ルモンではなく、ホルモンの様な働きをするホルモン様物質です。
では、ホルモンとエイコサノイドの違いは何でしょうか?
ホルモン様物質であるエイコサノイドを理解するために、まずホルモンとはどういうものかを見てみま しょう。
◎ホルモン
1、主に内分泌腺で作られる ホルモンは、離れた場所にメッセージを伝える、郵便のような物質です。 主として、体の中に数ヶ所ある内分泌腺(甲状腺、脳下垂体、副腎、卵巣など)で作られます。
2、目的地となる場所まで移動する 郵便に宛先があるように、ホルモンにも届け先が決められています。内分泌腺から分泌されたホルモン は、血液に乗って目的地となる組織や臓器に運ばれます。
3、到着したら、指令を出す 目的地に到着したホルモンは、メッセージを伝えます。組織や細胞にどのように働けばよいかの指令を 伝えることで、ホルモンは体の働きをコントロールしているのです。
それに対して、エイコサノイドはどのようなものでしょうか。
◎エイコサノイド
1、ほとんどすべての細胞で作られる エイコサノイドは赤血球以外の体中の細胞で、3つの脂肪酸(ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、 EPA)を原料にして作られています。
ホルモンを専門的に作っている場所が体内に10ヶ所ほどしかないのに対し、エイコサノイドが作られる 場所は、数十兆ヶ所あるのです。
2、作られた細胞内ですぐに利用される ホルモンは体内の離れた場所まで運ばれてから作用するのに対して、エイコサノイドはほとんどの場合、 作られた細胞内で即座に作用します。
ホルモンが遠くへ送られる郵便だとすると、エイコサノイドは同じ建物内でやりとりされる伝言メモの ようなものです。
3、ホルモンと同じように指令を出す エイコサノイドも細胞に対して、その細胞がどのように働けばよいかの指令を出して、体をコントロー ルしています。
実は、前回お伝えした細胞膜は、必要な時に必要なだけのエイコサノイドを作るために、必須脂肪酸を ストックする役割も果たしているのです。
このように、エイコサノイドはホルモンと違い、体中全ての細胞で作られて、その場で体の調整をする という特徴があります。そしてこのエイコサノイドの原料は必須脂肪酸なので、食べた脂肪酸からしか 作られません。だからこそ「油を変えると60種類の病気が改善する」と言われるのですね。
次回は、エイコサノイドの具体的な働きをお伝えします。